トランプの「プレイブック」は通用するのか?
トランプ前大統領は同集会で、急進左派のニューヨークの検事による「魔女狩り」であると強調し、自身を「犠牲者」として描きました。加えて、ロバート・モラー元特別検察官が行った2016年米大統領選挙におけるトランプ陣営とロシア政府との共謀疑惑及び、トランプ氏による司法妨害に関する捜査結果に言及し、「捜査は税金の無駄使いだった」と言い切りました。
トランプ氏は民主党が仕掛けた2回にわたる「トランプ弾劾の失敗」についても触れました。そして支持者に向かって、「腐敗したエスタブリッシュメント(既存の権力者)」と戦うと誓ったのです。
トランプ前大統領は自身の「プレイブック(戦略集・作戦帳)」に基づいて対抗策を講じています。ただ、今回のトランプ・オーガニゼーションとワイセルバーグ被告の脱税疑惑に関しても、同じ「プレイブック」が通用するのでしょうか。
トランプ氏は自身の個人アカウントを停止されているために、「最大の武器」であるツイッターとフェイスブックが使用できません。9000万人のフォロアーと直接コミュニケーションをとって、バンス検事とジェイムズニューヨーク州司法長官を激しく個人攻撃することが不可能になったのです。
しかもトランプ氏は現職の大統領ではなく、民間人です。現職の大統領は起訴されないという不文律にトランプ氏はこれまで守られてきました。しかし、この不文律は民間人となったトランプ氏には存在しません。旧式の「プレイブック」はもはや通用しないとみてよいでしょう。
22年米中間選挙への影響
20年米大統領選挙でトランプ前大統領は支持基盤を拡大できませんでした。そこで、来年秋の中間選挙に向けて支持層のパイを広げようと、中国に対して新型コロナウイルスの「損害賠償金」を請求しています。無党派層を取り込む狙いがあります。
ちなみに、米公共ラジオ(NPR)、公共放送(PBS)及びマリスト大学(東部ニューヨーク州)の共同世論調査(21年6月22~29日実施)によれば、ジョー・バイデン大統領の無党派層の支持率は48%です。ロイター通信とグローバル・マーケティング・リサーチ会社イプソスの共同世論調査(同年6月30日~7月1日実施)では、バイデン氏の無党派層における支持率は34%です。同調査(同年6月2~3日実施)では55%でしたので、約20ポイントも下がりました。トランプ氏には無党派層の票をバイデン氏から奪うチャンスがあります。
ただ、仮にトランプ前大統領ないし長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏、次男のエリック氏までが起訴されることになれば、同前大統領の狙いは外れます。無党派層を逃し、逆に支持層のパイは縮小するでしょう。
つまり、トランプ派の候補は共和党予備選で熱狂的なトランプ支持者の力を借りて勝利できても、本選で民主党候補から無党派層を奪えない公算が高まる訳です。