今回のテーマは、「22年米中間選挙を巡るトランプ前大統領とペロシ下院議長の熱い戦い」です。ドナルド・トランプ前大統領は6月26日(以下現地時間)、中西部オハイオ州で支持者を集めた大規模集会を開催し、来年秋の中間選挙に向けて政治活動を再開しました。トランプ氏は同月30日、メキシコとの国境を訪問してジョー・バイデン大統領の移民政策を厳しく非難しました。
加えて、7月3日に南部フロリダ州で行われた集会でも、バイデン氏の移民政策を批判しました。次の中間選挙は移民問題を柱にして戦うトランプ氏の戦略が見えてきました。
これに対して、民主党を率いるナンシー・ペロシ下院議長(西部カリフォルニア州第12選挙区選出)は、今年1月6日に発生した米連邦議会議事堂乱入事件に関する特別調査委員会を設置して、トランプ前大統領に対する対決姿勢を鮮明にしました。そこで本稿では、ペロシ下院議長の特別調査委員会設置の意図及び中間選挙への影響について述べます。
米下院特別調査委員会の設置
トランプ前大統領はトランプ弾劾に賛成した下院議員に対して「刺客」を送り込み、「落選運動」を行います。中間選挙でトランプ派の候補を当選させて、共和党内の影響力を維持しようとしているのですが、下院でそれを阻止する動きが出てきました。
ペロシ下院議長は6月30日、下院特別調査委員会設立の法案を賛成222、反対190で成立させました。野党共和党からはトランプ弾劾に賛成票を投じたリズ・チェイニー下院議員(西部ワイオミング州)とアダム・キンシンガー下院議員(中西部イリノイ州第16選挙区選出)が与党民主党側に回り、同委員会設立に賛成しました。
ペロシ下院議長が提出した法案では、特別調査委員会のメンバーは合計13名で、その内訳は多数派が8名、少数派が5名になっています。現在議会下院は民主党が多数派、共和党が少数派です。
次に、この法案では下院議長が同委員会の委員長を任命できます。ペロシ氏は早速民主党のベニー・トンプソン下院議員(南部ミシシッピー州第2選挙区選出)を委員長に指名しました。トンプソン氏は下院国土安全保障委員会の委員長です。言うまでもなく、トランプ支持者による米連邦議会議事堂乱入事件は国土安全保障問題だからです。
加えて、法案は特別調査委員会の委員長に召喚状を出す権限を与えています。そのうえで、議事堂乱入事件に関する報告書に提出期限をつけないことになりました。
「8対5」から「9対4」へ
ペロシ下院議長の特別調査委員会設置の狙いは、一体どこにあるのでしょうか。ペロシ氏は、同委員会のメンバーに反トランプの急先鋒である共和党のチェイニー下院議員を抱き込むことに成功しました。
チェイニー下院議員はブッシュ(子)政権のディック・チェイニー副大統領の長女で、父親似で極めてタフな人物です。共和党トップのケビン・マッカーシー院内総務(西部カリフォルニア州第23選挙区選出)は、チェイニー氏がトランプ弾劾に賛成票を投じたので、ナンバー3のポジションである同党会議議長から解任しました。
チェイニー氏が下院特別調査委員会のメンバーに加わったということは、「8(民主党議員)対5(共和党議員)」ではなく、「9(民主党議員+チェイニー氏)対4(共和党議員)」になったことを意味します。完全に民主党主導の委員会になりました。
民主党のメンバーには、1回目のトランプ弾劾裁判で検察官役を務めた主任弾劾管理人のアダム・シフ下院議員(西部カリフォルニア州第28選挙区選出)及び、2回目で同じく主任弾劾管理人であったジェイミー・ラスキン下院議員(南部メリーランド州第8選挙区選出)が含まれています。その背景には、「最強のメンバー」で議事堂乱入事件の調査を実施するというペロシ氏の固い決意があります。