2024年11月25日(月)

経済の常識 VS 政策の非常識

2021年8月12日

 これがどういう意味かのイメージを持っていただくために、日本の現実のデータに当てはめてみよう。2020年8月ごろ1日1000人程度の感染者が2021年1月には6000人程度に増加した。5カ月150日間で6倍、毎日1.2%ずつ増加したということである。

 1.2%増えるところを毎日0.1%(1.2-1.3)ずつ減少させるために2.5兆円かかるということである。150日後の感染者数は0.999(1-0.001)の150乗で0.86倍、感染者数は860人に収まる。これを繰り返していれば、緊急事態宣言は必要ないことになる。

緊急事態宣言と徹底検査はどちらが高いのか

 私は、緊急事態宣言を発出しないために2.5兆円かけることに価値があると思うが、現実には難しいだろう。まず、私の計算が信用されないだろうということがある。PCR検査や抗原検査で1回2000円という数字も、PCR検査で2万円と思っていた、あるいは2万円稼いでいた人からの反対があるだろう。また、偽陰性者の活動がむしろ活発になって感染を拡大するという議論も残るだろう。

 現実的には、感染している可能性の高い所、感染すると大変なことになる可能性の高いところ(病院、高齢者介護施設など)を検査して隔離・治療するしかないだろう。オリンピック関係者も対象となる。

 実際に政府がPCR検査および抗原検査等に使った予算は1299億円である(『令和2年厚生労働省補正予算の概要』の3回の補正予算内でPCR検査(抗原検査を含む)の項目の合計1087億円+「令和2年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費使用実績」の検査体制の項目の合計212億円の総計)。2020年度中に行ったPCR検査数は925万回であるから(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」オープンデータ)、1回当たりの検査費用は1.4万円(1299億円÷925万回)となる。これはもっとも必要なところやクラスター対策で発見された濃厚接触者を、1回あたりを無駄に高い費用で調べた費用ということになるだろう。

 私の考える2000円が間違いで、すでにできている1万円での検査を前提とすれば、検査費用は、1万円×1.26億人=1兆2600億円である。これに前述の隔離費用3625億円を足して1兆6225億円となる。これを4回繰り返すと年に6兆4900億円かかる。

 6.5兆円でも緊急事態宣言を出すより良いのではないかと思うが、これを費用対効果が悪いという人もいるかもしれない。もちろん、北海道大学が主張するように、PCR検査の精度が高ければ、費用対効果は高くなる。

【修正履歴】

 PCR検査に年2.5兆円、または6.5兆円かければ、感染者が毎日1.2%ずつ減少し、非常事態宣言を発出する必要はなくなる、もしくは大幅に減らせると考えていたが、デルタ株の感染力の強さを見ると、毎日1.2%程度の減少では、せいぜい多少遅らすことができる程度になる。私の考えが楽観的過ぎたことをお詫びしたい。

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