経済の常識 VS 政策の非常識

2021年7月20日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 今回は、2回目の新型コロナウイルス感染症対策の費用対効果分析で、テーマは検疫である。新型コロナは海外から来たのだから、そもそもウイルスに感染している海外の人を入れなければウイルスも入らない。検疫を英語でquarantine というが、語源はイタリア語の「40日」である。すなわち、海外からの人間を40日間とどめおいて誰も発症しなければ病原菌やウイルスを持たないとされたのである。

 コロナの場合、2週間隔離すれば大丈夫とされている。だから、海外からの入国を禁じるか、空港で2週間隔離すればコロナは入って来ない。これはもっとも簡単で効果的な方法に思える。

東京オリンピック・パラリンピック代表選手はじめ関係者への検疫がコロナ感染防止を左右する(ロイター/アフロ)

入国管理は効率的な隔離策

 そもそも、日本より感染者が少ない台湾、ニュージーランド、オーストラリア、韓国は昨年、中国からの入国者をいち早く禁止した国だ。台湾が2020年2月6日に対中国の、3月19日に対世界の入国禁止措置を取ったのに対し、ニュージーランドは対中国、対世界に取ったのは3月19日、オーストラリアは3月20日で、韓国は3月29日、日本4月3日だった。つまり、感染源となる国を早く入国禁止にすればそれだけ感染者は減少する。

 それは過去の話で今更仕方がないという議論があるかもしれないが、次々と生まれる変異株に対応するには遅すぎるということはない。感染者を入れないという検疫のコストをどう考えるべきだろうか。

 日本は、台湾などに遅れながらも、海外からの入国を制限している。その結果、2019年度に2777万人であった海外旅行客は20年度には24.2万人と100分の1以下に激減した(日本政府観光局<JNTO>「訪日外客数」)。これは確かに日本経済にとってのコストであるが、入国制限に反対する人はいないだろうから、コストとは考えない。ここで考えるコストは国境措置をより厳密に行うためのコストである。

 また、次のように考えることもできる。日本の旅行消費は国内客が国内総生産(GDP)の4%、海外客が1%である(国内はOECD STAT, Tourism consumption、海外はWorld Bank, World Development Indicators)。うち、国内旅行は、検疫で完全に海外からのコロナ感染を抑えることが出来たら抑制する必要はない。海外旅行客は来ないが、日本人が海外に旅行することもないので、差し引きした海外旅行消費の減少は1%の数分の1であろう。これは考えなくても良いかもしれない。

 入らないようにするためには2週間の隔離さえすれば良い。ホテルを用意して宿泊させ、外出や他の部屋への移動を禁じる。見守り費用を含めてホテル代は1日1万円で良いだろう。なんなら、1日当たり1万円の待機手当を払っても良い。一人1日2万円で14日間隔離する費用は28万円である。

 どれだけの入国者がいるかと言えば、2020年度の24.2万人である。もちろん、14日間完全隔離されるとなれば、そもそも海外からの入国者はさらに少なくなるだろうが、ここでは24.2万人のままとしておく。これに28万円を乗じると678億円である。もちろん、各国での感染や変異株の状況に応じて早めに対応すれば良いだけであるので、すべての国からの入国者に2週間の完全待機を求める必要もない。これは最大限必要となる予算である。

 678億円で変異株の流入を防げることができれば安いものではないか。変異株の感染者を見つけて、そのクラスターを探すという作業よりも確実である。

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