2022年11月29日(火)

経済の常識 VS 政策の非常識

2021年7月20日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

通常よりも難しい「五輪検疫」に注力を

 一国の総理が、PCR検査、ワクチン、治療薬を早くと言っても役人は動かなかった。しかし、オリンピック・パラリンピックを、今さらできないという訳に行かないだろう。できるようにするためにどうしたら良いか、何が必要かを考えるしかないが、考えているようには思えない。

 ロイター社の東京支局の外国人記者が、感染力が強まっているとされるイギリス株の感染源となったと報道されている。これに関して、検疫当局は、入国日の翌日から2週間の健康観察(自宅待機)と健康状態の報告を要請しているが、記者は12月25日に港区内のパブで友人ら9人とのパーティーに参加、感染を広めた(「ロイター記者、待機期間のパーティー参加でコロナ変異株が感染拡大」文春オンライン2021年2月9日16:12配信)。

 検疫当局によれば、これは要請を破って自宅待機していなかった記者の責任で、当局の責任ではないとしている。法や規則の建前からすれば、この言い分は完全に正しい。法律に泥棒はいけないと書いてあるのに泥棒はいくらでも出てくる。泥棒は泥棒をする奴の責任で法律を作る側の責任ではない。

 しかし、オリンピック関係者が守るべき行動を記したプレーブックに不備があれば、規則を作った役人の責任になるのではないか。2021年6月15日に公表されたプレーブック第3版でも、例外的にコンビニや個室レストランが利用できると記載されているとのことである。野党議員は、例外的が常態になると批判している(行動計画書に記入義務なし!? IWJニュース2021年7月2日)。これではバブル方式の徹底にはならないのではないだろうか。ルールは書いたから、それを破ったのはオリンピック関係者の責任で日本の責任ではないとは言えないのではないか。

 7月23日が開会式でその前から選手はどんどんやって来ている。30年後に初めて分かる企業の品質偽装事件なら、「大丈夫です。出来ます」と言っていても大丈夫でないと分かるのは自分の定年後だが、オリンピックで感染者が増えるかどうかは、ウイルスの潜伏期間の2週間後には分かってしまう。クラスター対策班も、オリンピックでの感染源は見つけるだろう。

 コロナ対策として、検疫はワクチンの次に費用対効果が高いだろう。ただし、完全に検疫するのは難しい。優等生の台湾も2021年5月以降感染者が激増している(「コロナ優等生の台湾でなぜ感染が広がったのか」東洋経済オンライン2021/05/31。6月時点で、ロックダウンなどの厳しい措置で収束に向かっている)。

 オリンピックでの検疫は通常の検疫よりもさらに難しい。日本のオリンピック関係者が、この難しさに無頓着なのは、わがままなオリンピック関係者に検疫を守らせる自信がない、面倒なことをするより流れに任せる方が楽だ、感染者が増えたら政治の責任でオリンピック関係者の責任ではない、どうせパラリンピックが終わったら組織は解散だ、と思っているのかもしれない。東京の感染者増とともに、無観客試合もやむなしとなった。政府主導で無観客にしてもらえば、入場料収入がなくなって赤字になることの責任は取らなくて済む。何もしないで流れに任せるというのは、当事者として正しい戦略かもしれない。

 しかし、他のことはなかなか結果が分からないが、コロナウイルスは潜伏期間の2週間後には必ず結果が分かるものだ。

  
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