2024年12月22日(日)

経済の常識 VS 政策の非常識

2021年7月17日

(ロイター/アフロ)

 2020年度の日本の名目GDPは前年度より22兆円減少して、政府は新型コロナウイルス感染症対策のために77兆円の予算を余計に使った。77兆円は、コロナがなかったら使わなかった予算だから、これもコロナ対策の費用である。すなわち、コロナが2020年度の日本経済に与えたコストは22兆円と77兆円を合計して99兆円ということになる。

 ただし、日本経済新聞によれば、コロナ予算のうち30兆円がまだ使われていないとのことである(「コロナ予算、30兆円停滞」日本経済新聞2021年6月24日朝刊)。すると、日本経済に与えたコストは69兆円(22+77-30)ということになる。

 この47兆円(77-30)のコロナ対策予算のうちどれがもっとも効果的だっただろうか。もちろん、コロナ対策予算の多くは、これによって所得を失ってしまった外食や旅行産業の人々を助けるものだが、ここで検討するのは感染症を予防する、感染症にかかってしまった人々を助ける予算である。感染症にかかってしまっても容易に回復するなら感染症がないのと同じである。その意味で、予防も治療も同じだと判断できる。

 ここでは、どの予算がコロナ感染症という疾病に効果的であったかを議論する。対策予算を、ワクチン、PCR検査(抗原検査を含む)、日本独自のクラスター対策、防疫、医療体制の拡充、治療法の確立と特効薬の開発に分けて考える。今回は、ワクチン費用のみを考え、それ以外は、次回以降に考察する。

ワクチン購入と接種で69兆円得する

 ファイザーとモデルナのワクチンの効果は95%弱である。この意味は、ワクチンを2回接種した人はワクチンを打っていない人と同じように行動しても20分の1しか感染しないという意味である。安心して20倍の大暴れをしない限りは、ほとんど感染が収まるということである。アストラゼネカのワクチンでも3倍の大暴れをしなければ感染が収まる。

 これは実際にワクチンの接種率が高くなったイスラエル、イギリス、アメリカで劇的に感染者が減少していることから見て確かなことである。今後、感染力の増した変異株の跳梁も考えられるので、コロナ以前と同じという訳にはいかないかもしれないが、マスクをする、手を洗う、ソーシャルディスタンスを維持するという程度の、国民にとっても外食、旅行業者にとってもあまりコストのかからない方法で日常を取り戻すことができるだろう。

 ワクチン購入費は7662億円(財務省「令和2年度一般会計新型コロナウイルス感染症対策予備費使用実績」)、ワクチン接種の実施に5736億円である(「令和2年度厚生労働省第3次補正予算(案)の概要」)。合わせて1兆3398億円である。接種が完了すれば、感染を抑えるために外出や外食を控える必要がなくなるので、1.3兆円の支出で69兆円の利益がある。これほど費用対効果の高い支出は考えられない。ファイザー社から1億4400万回分、モデルナ社から5000万回分、アストラゼネカ社から1億2000万回分である。合わせて、3億1400万回分、2回打たないといけないので1億5700万人分である。購入費7662億円を人数分で割ると1人4880円である。

 感染者を隔離するための不完全な手段であるPCR検査が一時は1回2万円、現在でも2000円程度であることを考えると、これほど安い買い物はない。一方、接種費用は日本人口の8割にあたる1億人に接種したとして1人5736円かかる。それでも足りないようで、現在、注射料を上げて注射を打つ担い手をかき集めている。インフルエンザワクチンの接種費用が薬剤も含めて1人4000円程度であることを考えると、接種費用が高すぎる。

 余計に購入したのは無駄だと考える人もいるかもしれないが、どのワクチンが成功するか分からないのだから、複数の企業と契約するのは当然である。10倍の5兆円かかったとしてもコロナが日本経済に与えたコスト69兆円の損失を回避できるのだからまだまだ安い。また、余ったワクチンは、中進国には代金を払ってもらい、貧しい国には無償または安価に供与すればよい。先進国だけでワクチンを打ってもコロナ感染症は撲滅できず、全世界で打ってウイルスを撲滅する必要があるからだ。


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