2つの反省点
ここで2つの反省点がある。第1は、イスラエル、アメリカ、イギリス、さらにはドイツ、イタリア、フランスなどに比べてもワクチンの入手と接種が遅れたことである。遅れたのは、ファイザー社などの治験に参加せず、かつ、日本独自に安全性を確かめたからである。しかし、ワクチンの危険とは100万人に1人に重大な副作用が現れるかもしれないということである。
日本は日本人成人160人に治験を行って日本人にも安全で効果があることを確かめたというのだが、100万人に1人の副作用が分かる訳がない。無駄な治験で接種開始時期が遅れただけである(「コロナワクチン承認、「日本人データ」で遅れ」日本経済新聞電子版2021年2月18日)。世界中で数億人が接種すればモンゴロイド系のアジア人にも数百万人に接種している。それを調べた方がずっと良い。
第2には、注射できる人の範囲をほとんど広げなかったことである。憲法に非常事態条項がないから何もできないという政治家が多いのだが、非常事態で何をするかを考えなければ非常事態条項があっても事態を改善することはできない。注射できる人の数が増えなければ接種数に制約が生まれてしまう。イギリスでは素人を訓練して注射をしていたが、日本では医師会の反対で注射できる人の数が限られていた。非常事態とは、その人にしかできないことをやって、その人でなくてもできることは人をかき集めてすることだ。
亀田総合病院の医師である八重樫牧人氏が薬剤師もワクチンの打ち手に加えるように提言していた。「日本では打ち手不足がボトルネックとなり、接種が遅れることが最初から分かっていた。世界では26か国で薬剤師がワクチン接種を行っている。カナダでは、薬剤師が接種資格を得る時に必要な実地訓練は1日だけだ。日本でも31万人いる薬剤師が接種を担えない現状は改めるべきではないか。・・・コロナワクチンの筋肉注射は、注射の中でも手技の難度が最も低い」としている(八重樫牧人「ワクチン接種、薬剤師も打ち手に」日本経済新聞2021年6月23日経済教室欄)。
立派なお医者様がいるものである。政府は、医師会の反対を恐れてこの提言を受け入れなかった。非常事態が何であるか、理解していないのである。医師には医師にしかできないことをしてもらって、筋肉注射は筋肉注射ならできる人を集めてするのが非常事態というものである(平常でもそうして良いのかもしれないが)。
新型コロナ感染症対策には、世界中のワクチン研究への財政支出を伴う協力が費用対効果の高いものとなる。さらに、海外での治験を基にしたワクチンの早期承認や接種の打ち手を確保するための役割分担が求められた。
次回以降、防疫とオリンピック、PCR検査(抗原検査を含む)、日本独自のクラスター対策、医療体制の拡充、治療法の確立と特効薬の開発の費用対効果を考える。
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