経済の常識 VS 政策の非常識

2021年3月9日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 新型コロナウイルスへの感染予防策と経済不況対策への支出によって、財政赤字が急拡大している。一般会計の基礎的財政収支(プライマリーバランス、税収+その他収入-国債費を除いた歳出)の赤字は、ここ5年の10兆円台から2020年度には約90兆円へと拡大している。

(出所)財務省資料(2015~19年度までは決算、20年度は第三次補正予算まで)を基にウェッジ作成
(注)基礎的財政収支赤字は国債費を除いた歳出から税収とその他収入を引いて算出
(イラストレーション=藤田 翔 Sho Fujita)​写真を拡大

 この主な要因は、3回の補正予算で積み上げられたコロナ対策予算等約77兆円によるものである。21年度予算では、20兆円程度に減少することになっているが、またまた補正予算を積み上げて巨額の赤字となるだろう。

 財政赤字90兆円とは、多くの方が心配になる額だと思うが、アフターコロナに向けた歳出のあり方に言及する前に、政府の赤字と企業の赤字とは全く異なるということを説明したい。

 企業が赤字であるとは、売上からすべての費用を差し引いたものがマイナスになっているということである。企業の費用とは原材料費や賃金、資本コストをすべて足し合わせたものである。

 一方、企業が黒字であるとは、すべてのコストを負担した以上に売上があるということだから価値を創造し、経営学の原理で言うと社会に貢献していることになる。

 こう言うと、それはきれいごとであるとか、市場原理主義者の言い分であると批判があるかもしれない。確かに、少なからぬ企業が、下請けを買いたたいたり、労働者を無理やり働かせたりして利益を得ているのかもしれない。

 しかし、若者を過度な労働に追いつめるブラック企業や下請け叩きは、長期の景気拡大が続いたおかげで、社会として受け入れられない状況になりつつある。もちろん、コロナ不況で、再びブラック企業が幅を利かすことになるのかもしれないため、そこは注視する必要がある。ただ、正常な景気情勢では企業が利益を出すことは経済に貢献していることの証拠になるのではないか。

 もちろん、現在のようなコロナ不況では、通常なら黒字を出している企業も赤字となっている。これは、コロナが価値を破壊しているのであって、企業が価値を破壊しているわけではない。コロナが終わり、需要が回復すれば、企業として再び黒字となり、価値を創造できるようになる。

 また、企業の生み出している価値が認知され、事業として軌道に乗るまで時間がかかるという場合もあるだろう。しかし、景気がそこそこ良い状況なら、利益は価値の指標だと言って良いのではないか。

 一方、政府の黒字とは、政府が使う以上に税金を取ったことの証拠にしかならない。税金を取るのは民間の生み出した価値を吸い上げたことであり、政府が税金の支出によってそれ以上の価値を生み出しているかは分からない。政府の黒字は価値を創造していることで、赤字は価値を破壊していることだとは言えないのである。大事なのは、歳入と歳出の差額ではなくて、歳出の中身である。

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