経済の常識 VS 政策の非常識

2021年3月9日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 では、政府の赤字がなぜ悪いのかと言えば、一つはクラウドアウトの議論である。政府が赤字であると、収入以上に支出しているということだから、貯蓄がマイナスということである。であれば、国全体の貯蓄も減少して、民間の投資余力を奪ってしまうというのである。

 メカニズムとしては、貯蓄不足で金利が上がり、投資が減るというものだ。理屈は正しいと思うが、超低金利下の現在でそのような兆候を見出すことはできないのではないか。

 もう一つは世代間の不公平の議論である。現在の政府が赤字を出して現在の世代のために使ってしまえば、将来の政府は将来の世代に増税して赤字を埋めなければならない。これは不公平だというものである。

 しかし、政府は現在の世代に国債を発行して赤字を埋めたのである。国債という金融資産を購入したのは現在の世代である。国債は現在の世代から将来の世代に贈与される。国債は政府にとっては借金であるが、国民にとっては金融資産である(すべての金融資産は、誰かの借金である)。しかも、国民は、国債と同額の金融資産を持っている。将来の世代は、この国債で増税分の支払いをすることができる。平均で考えれば世代間の不公平はないのではないか。

財政赤字縮少に向けて

 政府支出は、政府の赤字が企業の赤字と異なることを認識して対策すべきだ。コロナ前までの約10年間は、財政赤字は減っていた。新型コロナという非常事態への対応として、将来のために真に必要なことには財政出動を図るべきだ。

 ただ、前述のように、20年度第三次補正予算までの国債費を除いた歳出約150兆円のうち約77兆円がコロナおよび不況対応である。これは明らかに大きすぎる。この対策が本当に価値を生み出しているのか、疑問に思う。まずは支出の中身を考えるべきである。

 コロナ対策で、政府が支出したかなりの部分は、雇用調整助成金、持続化給付金など、既存の産業構造をそのまま維持しようとするものだ。人間は急激な変化に耐えられないものだから、一時的なものであればそれも良い。しかし、コロナ禍は、20年いっぱい続き、ワクチンの接種に時間がかかれば21年でも終わらない。

 人口の3分の2程度、8000万人が2回接種しないと集団免疫が獲得できないようなので、月に1330万回、毎日44万回の接種をしないと今年度中に免疫が獲得できないということになる。全国民に10万円配るのに20年4月から10月までかかった国で、そんなことができるのだろうか。2年以上続く事態を一時的とすることには無理がある。

 医療も必要なところに動くことが求められている。高齢者の慢性病に特化した日本の医療を、感染症にも対応できる機敏に動ける医療にしなければならない。

 雇用をただ維持するといった現状への対策のためだけに予算を使うのではなく、新たに生まれた需要に応じて働く場所を動けるように予算を使うべきだ。それがアフターコロナでの景気浮揚への体制強化につながり、将来的な財政赤字の縮小へも進むのではないだろうか。

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■「想定外」の災害にも〝揺るがぬ〟国をつくるには
Contents     20XX年大災害 我々の備えは十分か?
Photo Report     岩手、宮城、福島 復興ロードから見た10年後の姿

Part 1    「真に必要な」インフラ整備と運用で次なる大災害に備えよ  
Part 2     大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた             
Part 3     行政依存やめ「あなた」が備える それが日本の防災の原点      
Part 4   過剰な予算を投じた復興 財政危機は「想定外」と言えるのか   
Part 5     その「起業支援」はうまくいかない 創業者を本気で育てよ          
Part 6   〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 これで「有事」に対応できるか

  
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◆Wedge2021年3月号より

 

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