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2021年5月31日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 東京オリンピック・パラリンピック開幕が刻々と迫ってきた。開催断行の是非をめぐって、これまで直截な主張を控えてきたメディア間での論争が高まりを見せはじめている。

(voyata/gettyimages)

 朝日新聞がコロナ禍での開催中止を求める社説を全国紙としては初めて掲載した。これまでも強い疑問を指摘してきており、いつかは正面切って、反対論を打ち出してくると予想されていた。

 一方、読売新聞、産経新聞はこれに反論するように積極論を展開、主張がくっりきとわかれた。

 近代オリンピック第1回、1896年のアテネ以来、夏季だけで31回の歴史を振り返ってみると、中止、返上された大会は冬季も含めて計5回にのぼる。すべて戦争のためだ。東京が見送りとなれば6回目となる。

 しかし、中止となった大会は、時間の長短はあったにせよ、何年か遅れていずれも〝復活開催〟にこぎつけている。聖火が灯されることのない〝幻のオリンピック〟に終わってしまったことはいちどとしてなかった。

 このことはあまり知られてはいないが、東京大会も、今回、中止という苦渋の選択を余儀なくされたとしても、他日を期せば、チャンスは意外に早くめぐってくるかもしれない。

「朝日」反対、「読売」「産経」は積極論

 朝日新聞の5月26日付け社説の見出しは「中止の決断を首相に求める」だ。緊急事態再延長での開催が「理にかなうとは思えない」と力説。菅首相、小池都知事、橋本聖子大会組織委会長らに「大切なのは市民の生命。リスクへの備えが十分ではない〝賭け〟は許されない」と開催見送りを強く求めた。

 この社説は、アメリカ疾病対策センター(CDC)が24日、日本の感染リスクを最高レベルに引き上げ、国務省が渡航情報を、生命を脅かすリスクが高いレベル4、「渡航中止」に変更した直後に掲載された。

 米五輪・パラリンピック委(USOPC)は、選手団派遣の方針に変更はないとの声明を出してはいるが、実際には、 CNN、ブルーバーグ通信などメディアが「開催へのハードルが高くなってきた」などと報じ、影響は避けられないとの見方が強まっている。

 毎日新聞も五輪会開幕まで2カ月となった5月23日の社説で、「安全・安心の根拠が見えぬ」として、菅首相、組織委、都から納得のいく説明がない限り、「国民の支持は得られまい」と慎重姿勢をみせた。

 一方、朝日社説の翌27日、読売新聞は、「開催へ感染防止策を徹底せよ」という見出しの社説で、選手へのワクチン接種が進んでいること、海外観客の受け入れ断念が決まったことなどに触れ、「環境は整いつつある」と積極論を展開した。

 そのうえで、国民の多くが不安視するのは具体的な感染防止策への首相の言及が十分ではなかったためとして、「対策の現状と課題を説明すべき」と注文を付けた。

 その翌日の産経新聞の「主張」(社説に相当)も、「開催への努力あきらめるな」との見出しを掲げた。感染拡大など環境が厳しくなっていることを認めながら、「安心・安全」は前提にすぎないとして、「感染予防などの努力は日本を前進させる」と訴えた。

 「努力あきらめるな」という日本語に違和感を覚えるのは別としても、開催はもはや困難という事実認識に立っているかのような印象で、苦渋の編集方針が伝わってくるようだった。

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