白人警察官が黒人男性の首を押さえつけて死亡させた記憶があたらしいアメリカで、罪もない黒人青年をジョギング中に射殺した白人男3人がヘイトクライム(憎悪犯罪)で訴追された。
日本ではほとんど報道されなかった事件の動機は、検察が〝リンチ〟と非難するほどの冷酷さ、これが21世紀のアメリカかと目、耳を疑うほどだ。
事件は2020年2月に起きた。21年3月にアジア系女性ら9人が射殺された事件と同様、ジョージア州が舞台だ。
州東部のブランスウィック市郊外の公道で、電気技術者の黒人青年(当時25)がジョギング中、突然、ショットガン、拳銃を持った白人3人組にピックアップトラックで追いかけられた。
親子を含む65ー25歳の犯人グループは2台に分乗。1台が行く手を阻み、驚いた青年がUターンして引き返そうとすると、もう1台が追い越して挟み撃ち、逃げ道をふさいだ。
犯人の1人が「とまれ、話がある」と叫び、別な1人がショットガンを手に車を降りてきたため、危険を感じた被害者が逃れようとしてもみ合い、犯人グループがショットガンを発射、青年の左右の胸、右腕に命中した。
犯人の1人が犯行の一部始終をスマホでビデオ撮影していた。
青年は銃などは持っておらず、アルコール、薬物使用の形跡もなかった。何もしていない自分がなぜ襲われたか理解できなかったろう。
犯人グループは、この地域で過去数カ月間に盗みの被害があったことから、事件直前に現場近くの建設中の住宅に入り込んでいた青年を犯人と思い込み、捕まえようとしたと供述。射殺したことについては、「殴りかかられたので撃った。正当防衛だった」と主張している。
被害者が建設現場に立ち入ったのは監視カメラでも確認されているが、建築主は、当日も過去にも、現場から何かが盗まれたことはかったと断言。警察によると、この地区での盗みの被害は、過去数カ月の間、鍵をかけ忘れた車が狙われた1件だけだったという。
遺族の代理に人の弁護士は「彼は現在も健在のはずだった。肌の色がそれを不可能にした。人種差別によるヘイトクライムだ」と糾弾した。
地方検事「逮捕の必要なし」と指示
事件の凶悪さを考えるまでもなく、犯人グループは、当然身柄を拘束されるところだが、あろうことか地元の地方検事は警察当局に対して、逮捕を見送るよう指示した。州の法律で、民間人による犯罪者拘束の権利が明記されていること、被害者が抵抗したための正当防衛であることを認めたためという。犯人グループの主張そのままだ。
事態は20年5月になって変化をみせる。
犯人グループと接触した弁護士が、1人が撮影したビデオ映像を地元ラジオ局に提供、これがウエブサイトにアップされ、武器を持たぬ被害者が撃たれるショッキングなシーンが多くの人々の目にさらされた。黒人差別の言葉もふんだんに収められていたという。
ビデオを公表した弁護士は「私はだれの代理人にもならない。事件の透明性を確保するのが目的だった」と説明しているが、これを機会に、州内外で犯人を放置している当局への抗議運動が高まった。
ここに来て当局もやっと決断、5月7日に3人を殺人などの容疑で逮捕した。犯行から57日も経過していた。