警視庁が摘発した中国共産党員によるサイバー攻撃は、日本国内の200にものぼる企業、機関が標的だったという。
時あたかも、菅首相とバイデン大統領が、中国に共同で対抗することを確認した直後だ。日本は制裁発動などの厳しい手段をとるべきだろう。それがアメリカに約束した連携の第一歩、中国への強い姿勢が口先だけはないことを内外に示す機会にもなる。弱腰と映る態度をとれば、「深化」させたばかり同盟が早くも揺らぐ。
日米関係を抜きにしても、日本の安全保障を脅かす重大犯罪に厳正さを欠く姿勢で臨めば将来に大きな禍根を残すだろう。
対中連携謳った首脳会談の直後
何とも微妙なタイミングだった。
スパイ事件が報道されたのは4月20日。菅首相とバイデン大統領の会談が行われてから3日後、首相が帰国してから、わずか2日後。「新たな時代の同盟像を打ち出した」(読売新聞4月18日社説)余韻が各紙紙面に残っている中での報道だった。
2016、17(平成28、29)年に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など国内の研究機関、企業に大規模なサイバー攻撃が仕掛けられた。
警視庁公安部の捜査によって、当時日本で活動していた中国籍、30代のシステムエンジニアの男が関与していた疑惑が強まった。
中国共産党員といわれる男は、2年間に5回にわたって偽名を使い、犯行に用いた日本のレンタルサーバーを契約するなどした。攻撃は中国人民解放軍のサイバー専門「61419部隊」が主導、実行したのは同部隊の指示をうけた中国のハッカー集団「Tick」という。男はサーバーのIDなどを渡していた。
任意での事情報聴取には応じたが、その後出国してしまったため、公安部は私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで4月20日に書類送検した。
中国人民解放軍関係者の指示を受け、偽名でレンタルサーバーを契約したとみられる別の中国籍の男が浮上したが、やはり既に出国したという。
加藤官房長官は4月20日の記者会見で、現在のところ被害状況は確認されていないと説明しながらも、人民解放軍の関与の疑いを認めた。「意図、手法、背景について政府機関で情報を共有し、対策に活用していく」と述べ、警戒の色を鮮明にした。
中国政府は「サイバー攻撃に名を借りて悪口を浴びせることに断固反対する」(外務省報道官)とコメント。無反省、居丈高な姿勢は相変わらずだが、心なしか迫力に欠けた。