2024年12月3日(火)

経済の常識 VS 政策の非常識

2021年8月12日

 クラスター対策の費用の多くは、指導した感染症学者と保健所職員の人件費と電話代であるから、ほとんどが保健所の人件費と言えるだろう。厚生労働省によれば保健所の常勤職員数は2万7902人である(厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」資料編、2保健医療、保健所の職種別常勤職員数)。

 保健所は、もちろん他の業務をしている訳で、コロナのクラスター対策でどれほど余計に人件費がかかったかは分からない。ここからはまったくの推測になるが、保健所崩壊という報道から保健所業務はコロナ対策のために崩壊するほど増大したと考える。さらに、日常の業務量が3割増えればたいていの職場は崩壊状態になるとする。もちろん、崩壊しないように、他の部局から応援を出したり、非常勤職員を増やしたりしただろう。すると、2万7902人の3割強である1万人分の人件費がクラスター対策の費用であると推測できる。人件費を平均で年500万円として500億円である。

推進派は偽陽性者も含め徹底隔離

 PCR検査の感度は70%、感染していない人を検査によって感染していないと判断する特異度は99%とされている(北海道大学「PRESS RELEASE 2020/9/28新型コロナウイルス唾液 PCR 検査の精度が約 90%であることを世界最⼤規模の研究により証明!」によると感度が90%、特異度が99.9%とされているが、ここではより低い値を採用した)。日本の人口1.26億人のうち1%が感染しているとすると、真陽性者が88万人、偽陰性者が38万人、偽陽性者が125万人となる 。

 検査のコストは、手作業ですれば1回2万円であったが、現在は民間医療機関が複数回チケットで1回1万円以下にしていたり、機械による大量処理で安価にする技術が導入されている。また、時間がかからずコストも安い抗原検査もある。イギリスでは抗原検査で感染者を割り出すことが行われており、感度の低い抗原検査でも十分に効果的との主張もある(牛嶋俊一郎「新型コロナウイルス検査の後進国日本」公益財団法人 都市化研究公室『論壇』Vol.4, 2021年7月)。

 PCR検査と抗原検査を組み合わせることも考えられる。ここでは機械化されたPCR検査の費用を技術の発達により2000円でできるとして、総費用は、2000円×1.26億人=2520億円である。

 偽陰性の人はコロナを感染させるが、陽性の人の7割は隔離できているのだから、これまでと同様にしていても、ウイルスとの接触を7割削減した世界が生まれている。

 真陽性者88万人は治療しなければならない。患者は治療すべきものであるから、新たにやらなければならないのは大量検査となる。症状の重い人の多くは現在でも治療を受けているはずである。治療を受けていないとすれば、これは患者にとっても社会にとってもリスクとなるのだから、受けさせなければならない。

 症状のない人も隔離しないといけないが、発見されなかったらうつしていたのだから、この隔離はコロナ禍のコストを削減している。擬陽性の人125万人は隔離しないといけないことになる。

検査と隔離を合わせて年間2.5兆円

 簡単のために擬陽性者は症状がないとしておく。この人々をビジネスホテルに2週間隔離するコストは、一人当たり1日1万円×14日=14万円とする。また、働けなくなっているのだから、平均賃金を年400万円として、一人当たりの働けないコストは400万÷365日×14日=15万円である。ホテル代と合わせて29万×125万人=3625億円である。

 PCR検査費用と合わせて6145億円である。これで抑制派がコストと考えるものがすべて入っている。次に、この検査にかかる時間であるが、ワクチン接種でも1日100万回が可能である。唾液でPCR検査をするなら、1日100万回以上はできるだろうから、3カ月で国民全員の検査が可能である。

 しかし、コロナウイルスは見えない中で次々と人々に感染させていくのだから、1回検査してそれで終わりということにはならない。検査は繰り返さないといけない。3カ月、90日に1回検査するとすれば、年4回で6145億円×4=2兆4580億円かかる。

 これは3カ月かけて7割の感染者を隔離して3割(0.3)に減らすという費用である。1日にできるのは0.3の90分の1乗の0.987、すなわち毎日1.3%(1-0.987)ずつ減らしていくということである。毎日1.3%ずつ減らしていけば90日後に0.3になることは、(1-0.013)の90乗が0.3であることで確認できる。感染者を毎日1.3%減らすために年に2.5兆円かかるということである。


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