2024年4月25日(木)

新しい原点回帰

2021年9月19日

 当初は作ったメガネを知り合いにかけてもらうところから始め、徐々に口コミで広がっていった。ラグビー選手や相撲取りなど、大きな体格の人たちが真っ先に飛びついた。有名選手で「眼鏡ノ奥山」の常連さんは何人もいる。自分の顔の大きさに合ったメガネを長年求めていたが、簡単には見つからず、既製品を妥協して使っている人たちが予想以上に多いことが分かったのだ。

 おしゃれに気を遣う人たちも、自分だけのメガネを作ってくれる「眼鏡ノ奥山」のオーダーメイドフレームは徐々に知られる存在になっていった。

サイズを整えば
かけ心地は明らかに変わる

 人間の顔は左右対照のように見えてかなり違う。店頭での採寸では、まず顔の幅を測って、メガネの大きさを決める。標準品は134㍉~142㍉の間がほとんどだが、160㍉幅の人も少なくない。さらに左右の耳の高さも大きく違う。メガネのツルの長さも自ずから変わってくる。さらに鼻あてのサイズを採寸し、眼球の位置を合わせる。「きちんとサイズを整えれば、かけ心地は明らかに違います」と今も店頭で採寸作業を行う繁さんは言う。

 

 お客の好みに応じて最初から図面を起こすこともできるが、いくつものパターンの形を作りサンプルのフレームを店頭にも並べている。そうしたサンプルから形を選び、測った寸法でメガネの横幅やレンズの大きさ、ツルの長さを微調整する、いわば「セミオーダー」の仕組みも導入している。

 セルロイドの面白いところは同じ模様の板材を使うにしても、切り出す場所でメガネのフレームに入る模様が微妙に変わること。まったく同じものは2つとできないのである。

写真左=き方次第で様々な風合いを出すことができるセルフレーム
写真右= 「眼鏡ノ奥山」が刻印されたフレーム

 セミオーダーは、図面を一から起こさない分、価格も抑えることができる。セミオーダー商品のフレームは2万7000円と、フルオーダーの4万4000円に比べて手頃な価格だ。セミオーダーならばレンズを入れても5万円以下で作れる。

 お客の8割方は、セミオーダーを選んでいるという。フルオーダーにこだわるお客の中には、右と左のレンズの形を変えたり、昔の思い出のメガネを復刻したりといった人もいるという。

 お店は決して便利とは言えない場所にあるのだが、なぜそんなにたくさんのお客がやって来られるのか。実は、インターネットを使った通信販売も行っている。これは留偉さんが店を継いだ時からの販売戦略だった。大学を卒業後、2つの会社で8年間営業を経験した留偉さんは、当初からインターネットやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を活用した商売の可能性を感じていた。今では販売本数の4割くらいが通販だという。正面を向いた写真や簡単な寸法を測って送ってもらうことで、通販でもセミオーダーのメガネを作ることができる。

 また、全国20店近い眼鏡店と契約して、お店でサイズを測り、形や素材の色を選んで注文書を送ってもらう仕組みも導入している。宣伝もインターネットを駆使したPRに特化している。

「1本作ると必ずといっていいほどリピーターになっていただけます」と留偉さんは語る。固定客が増え、経営も小売り専業時代から比べると大きく改善したという。「眼鏡ノ奥山」の基本戦略は「お客の満足度を高めることに力を入れ、安売り競争に巻き込まれるような商売はしないこと」だという。お客も満足し、店の利益も確保でき、処分品を出さずに社会への負荷も小さくできる。まさに「三方良し」のビジネスモデルということだろう。

写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa

Wedge6月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■押し寄せる中国の脅威  危機は海からやってくる
Introduction  「アジアの地中海」が中国の海洋進出を読み解くカギ
Part 1         台湾は日米と共に民主主義の礎を築く        
Part 2       海警法施行は通過点に過ぎない  中国の真の狙いを見抜け  
Column    「北斗」利用で脅威増す海上民兵
Part 3       台湾統一  中国は本気  だから日本よ、目を覚ませ! 
Part 4     〖座談会〗 最も危険な台湾と尖閣  準備なき危機管理では戦えない
Part 5       インド太平洋重視の欧州  日本は受け身やめ積極関与を
Part 6       南シナ海で対立するフィリピン  対中・対米観は複雑
Part 7         中国の狙うマラッカ海峡進出  その野心に対抗する術を持て

   
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Wedge 2021年6月号より
押し寄せる中国の脅威
押し寄せる中国の脅威

「中国の攻撃は2027年よりも前に起こる可能性がある」─。

アキリーノ米太平洋艦隊司令官(当時)は今年3月、台湾有事への危機感をこう表現した。

狭い海を隔てて押し寄せる中国の脅威。情勢は緊迫する一方だ。

この状況に正面から向き合わなければ、日本は戦後、経験したことのないような

「危機」に直面することになるだろう。今、求められる必要な「備え」を徹底検証する。


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