EUは昨年3月、パンデミックに対処するために加盟国に自由な財政出動を認めることとして「安定・成長協定」を中核とするEUの財政規律の適用を一時的に停止した。「安定・成長協定」は、次のように定めている。公的債務はGDP比60%を超えてはならない。そして財政赤字はGDP比3%を超えてはならない。これに違反すると、政府は健全財政に立ち戻る計画を作らねばならない。
ようやくパンデミックを徐々に抑え込み、復興への歩みを進める段階に至って「平時」に復帰後の財政規律のあり方が俎上に上るに至っている。9月10日の非公式の財務相会合で意見交換が行われたが、2023年から「平時」に復することを睨んで、来年中には成案を得るべく、今年中には欧州委員会がその案を提案する模様である。
「安定・成長協定」は、その硬直性が成長を阻害していると非難の対象とされ、あるいは過去の危機を経て実情に合致しないことにもなって来ているので、全般的な見直しの好機とも言い得よう。
しかし、見直しは、エコノミスト誌9月18日号の記事の表現を借りれば「塹壕戦」が予想されている。ジェンティローニ欧州委員(経済担当、元イタリア首相)は「安定・成長協定」の実質的な改定を狙っているようであるが、オランダ、オーストリアなどの倹約家の諸国は、如何なる改革も財政の持続性を害してはならず、公的債務の削減目標は維持されるべしとの立場である。
彼等は「安定・成長協定」の改善に賛成だと言うが、それは規制を簡素化し、透明性を高め、一貫性のある適用を求めるというものらしい。しかし、ユーロ圏の公的債務のGDP比は19年の83.9%から20年には98%に上昇した。20年に60%以下に抑え得たのはルクセンブルク、オランダ、アイルランドの3カ国しかない(ドイツは69.8%、フランスは115.7%)。
この目標を今後も掲げ続けるのは冗談としか思えず、恐らく欧州委員会もこの目標は有名無実化しているとの認識であろう。他方、財政赤字3%目標につては、欧州委員会はこれを維持することが望ましいと考えているとの観測があるが、ユーロ圏の財政赤字のGDP比は19年の0.6%が20年には7.2%に膨張した。