この政策は、岸田氏率いる名門派閥「宏池会」の初代会長、池田勇人元首相(1960-64年在任)の「所得倍増」「高度成長」のコピーであるのは明らかだ。当時とは異なる現代で、「令和版」とはいえ所得倍増を打ち出したのは無理だったと判断したのかもしれない。
しかし、当時は魅力的なアイデアだったこのプランを原型に、アップデートな要素を取り入れて現在でも関心をひく公約を打ちせなかったものか。定年延長、週休3日、テレワーク時代――など国民の関心をひくテーマはいくつもあろう。
そうした心動かされる公約が登場すれば有権者は歓迎し、選挙戦も盛り上がるはずだ。
混沌とする国際情勢の中、世界でどう生きるのか
日本の将来に重要な影響をもたらす外交、安全保障・防衛は今回も低調だ。しかし政策を比べてみると、各党の立場には大きな相違がある。
自民党の政策集には、言わずもがなということか、「日米関係が基軸」という言葉は見られない。見出しでは「防衛力」ではなく「国防力」という表現が用いられ、対中、対北朝鮮を念頭に「令和4年から大幅に防衛力を強化する」と公約している。
立憲民主党は「日米安保基軸」として自民党同様「豪州、インドとの協力推進」をうたうが、一方で、政権についていた時とは変わって、沖縄の普天間飛行場の辺野古移転に明確な反対を打ち出している。
国民民主の重点5項目からは残念なことに、安保・防衛は除外されている。しかし、その他の項目の中では、日米地位協定の見直しを明記した。
こうした古くて新しい争点は存在するにもかかわらず、各党の公約、重点政策で安保・防衛の比重が小さいのは残念というほかはない。
経済力の衰退に伴って、日本のアジア、世界における地位は衰退の一途である。国連安全保障理事会常任理事国入りなど泡沫の夢となったいま、日本は国際社会でどういう地位を占め、どう生こうとしているのか。
日米豪印の連携強化という当面の対応はいいとして、長期的な外交、防衛の方針をどう確立し、各国とどんな関係を構築するのか。中国、北朝鮮の脅威にさらされ続けているなかで、政治家にそれに対するプランがないのだろうか。不安に感じる国民も少なくあるまい。
憲法改正、不可解な立憲民主の沈黙
もうひとつの最重要課題、憲法改正も同様だ。
自民党は、自衛隊の明記、緊急事態への対応、(国政選挙での)合区の解消、教育の充実――の4項目を挙げ、日本記者クラブの会見でも岸田首相は、その実現に不退転の決意を強調した。
日本維新の会は、教育の無償化、道州制の導入、憲法裁判所の設置などこの問題に積極的な党らしい独自の提案をしている。共産党は護憲の立場から「コロナ対策を口実とした緊急事態条項を明記するのは、火事場泥棒だ」と糾弾する。
しかし、不可解なことに、野党第一党の立民は、憲法にいっさい言及していない。論争が低調な原因のひとつは、野党第一党の消極姿勢にあるのかもしれない。
大所高所からの論議を望みたいテーマはまだまだ枚挙にいとまがない。
「成長と分配など、ただ格差が行き過ぎたから手直ししたいということでしょう。文化や社会生活全般に関する議論はほとんど聞かれない」(佐伯啓思京大名誉教授)という盲点を突くような指摘もある。
それにしても、21世紀も20年を過ぎ、新しい時代とは言えなくなったにもかかわらず、いまもって各論中心の選挙戦が展開されるのはどうしたことだろう。
選挙戦大詰めの〝隠し玉〟として、すばらしい公約が飛び出してくることを期待したい。それは過大な望みか。