2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年10月27日

 もっとも、ロシアの当面の目標はより限定的でノルド・ストリーム2(9月に完成したらしい)にドイツの規制当局の承認を早期に取りつけ稼働に漕ぎつけることにある。広く指摘されているように、今回のプーチンの発言とされるものも、この目的で硬軟とりまぜて圧力をかける努力の一環であろう。

EU司法裁判所でも争われる

 ドイツの規制当局による承認を得る上での障害は2019年のEUのガス指令の改正である。これによって、次の主として三つの条件がEU加盟国の間だけでなく、第三国と結ぶパイプライン(即ち、ノルド・ストリーム2)にも適用される(ただし、適用があるのはEU域内の部分のみ。従ってドイツの領域の海底から上陸地点を経て既存のパイプライン網に至る接続部分に限り適用がある)こととなった。

 EUのガス指令が要求する主たる条件は、(1)ガスの供給とガスの輸送を分離すること、即ち、ガスプロムが双方を担う現在の形態は認められない、(2)ガス輸送のために第三者にその利用を解放すること、(3)料金体系のドイツ規制当局による承認、である。

 ノルド・ストリーム2事業会社はこの条件の適用除外を求めて法廷で争って来たようであるが、10月6日、EU司法裁判所の法務官は、事業会社はガス指令について争う立場にないとの一般裁判所(EU司法裁判所の下級法廷)の判断を覆し、ガス指令の改正はそれ以前に建設が始まっていたノルド・ストリーム2だけが対象であることが実態であることなどを指摘し、事業会社にとってガス指令は直接的な関心事項であるとして、EU司法裁判所で争う立場にあることを認めるとともに、ガス指令の条件の適用の有無という問題の実質については一般裁判所に差し戻すべきことを述べた。

 EU司法裁判所は法務官の判断に従うのが大体において通例であるので、今後数カ月のうちに同裁判所は同様の判断を行うものと見込まれる。これはロシアにとって一歩前進に違いないが、決着までにはなお時間――恐らくは来年後半まで――がかかる。その間、ロシアは欧州を揺さぶることを引き続き試みるであろう。

   
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