欧州におけるガス価格の高騰が注目されているが、これは多種多様な要因が組み合わさって生じた事態のようである。
欧州では急速なガス需要の回復と予想外の供給の滞りが重なったが、安定供給のための備蓄は手薄だった。パンデミックに伴う需要の減退で欧州の余剰のガスは備蓄に回ったが、厳しい冬の暖房の需要を賄うために欧州は備蓄を取り崩すことになった。LNGの需要が経済回復で先行する中国をはじめアジアで急増しているため、欧州の取り分は減少しているらしい。
オランダのガス田フローニンゲンの事故、あるいはノルウェーのLNGプラントの火災などの小さな供給障害が色々加わったこともある。脱炭素化への移行期間におけるガスの重要性の高まり、あるいは欧州北西部の風が静かで、風力発電が落ちたという天候の要因もある。
欧州のガスの3分の1はロシア国有のガスプロムが供給しているが、ロシアは、長期契約に伴う供給義務を果たしていることを繰り返し強調し、ノルド・ストリーム2が稼働すればより多量の供給が可能となると示唆する一方、スポット市場に追加の供給をすることはしていない。
10月9日付けのフィナンシャル・タイムズ社説‘Russia is taking advantage of the energy squeeze’は、ロシアが欧州へのガス供給を途絶させないまでも、供給危機に乗じて追加の供給を拒否することにより、欧州に圧力を行使出来ることを指摘し、ノルド・ストリーム2が稼働することとなれば、更にロシア依存を深めることになることを警告している。それは至極当然の懸念である。