Wedge SPECIAL REPORT

2021年11月20日

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山田敏弘 (やまだ・としひろ)

国際ジャーナリスト

講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の客員研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。著書に『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社+α新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)など。

国家犯罪とサイバー攻撃
曖昧になる境界線

 こうした身近なところの被害から、国家をも脅かしかねないのが、サイバー攻撃の恐ろしさである。攻撃者は虎視眈々と、入りやすいターゲットを狙っている。脆弱なセキュリティー環境下でのテレワークや、セキュリティー意識の低い中小企業の取引先や関連企業などを入り口に、大手企業、ひいては国の仕事を担う企業にまで潜入を許すことになる。

 そしてサイバー空間では、国境を越え、企業や個人を超えたところにまで影響が及んでいく。国家的な思惑で活動するサイバー攻撃者も少なくない。例えば、日本や西側諸国と敵対するロシアから活動するサイバー攻撃集団は近年、世界でも際立つ存在になっており、ロシア政府や情報機関からの指示で動いている集団もいる。

 筆者の取材に応じた米中央情報局(CIA)の元幹部は、「そもそもロシアのような国ではサイバー犯罪集団の活動は全てロシア政府の情報機関が掌握している」と断言する。つまり、ロシアからの企業などを狙ったサイバー犯罪の中にも、情報機関が背後にいる可能性を認識しておいたほうがいい。

 それは中国も同じだ。政府組織がサイバー攻撃を実施し、金銭目的のサイバー犯罪者を装って基幹産業から知的財産や機密情報を狙う。安全保障的に必要な情報は政府が吸い上げ、知財情報は政府が目を掛ける有望な中国企業に横流ししてきたと指摘されている。

 もはや、サイバー空間に国境がないのと同じく、犯罪と安全保障の垣根もサイバー空間では曖昧になっているということだ。こうした実態を見れば、企業を含むどんな組織でもサイバーセキュリティー対策を重視しなければならないことがわかるだろう。

 政府は9月、今後3年間の「サイバーセキュリティ戦略」を決定し、「誰も取り残さないサイバーセキュリティ」という方針のもと、デジタル改革やDXの推進などに力を入れると表明した。その中で、国家の関与が疑われる攻撃の脅威が高まるとして、初めて中国、ロシア、北朝鮮を名指しした。

 さらに、警察が国内の動きに目を光らせ、効果的な捜査がなされるかも重要だ。警察庁は22年度から、全国のサイバー犯罪を直接捜査する組織を新設し、これまで各都道府県がそれぞれで担当していた形から一歩踏み出す。ようやく「県境」を越えた連携が始まる。

 個人から企業、そして国家までもがターゲットになるサイバー攻撃の脅威。デジタル化とネットワーク化がこれからますます加速する日本で、本気でサイバー対策をしなくては安心して暮らせない時代に私たちはいることを改めて認識する必要がある。

 以降のPARTでは、今やサイバー攻撃が安全保障の重要な手段となっている現実や、セキュリティー感度が高いとされるイスラエルの取り組み、中国のサイバー攻撃の実情を見ていく。さらに企業幹部に求められるセキュリティーに対する考え方や、感度を高める取り組みなどを取り上げ、網羅的にサイバーリスクを概観し、対策を提言する。

(本稿の一部はWedge編集部〈濱崎陽平・鈴木賢太郎〉が取材・執筆)

Wedge12月号では、以下の​特集「日常から国家まで 今日はあなたが狙われる」を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
■日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
Part1 国民生活から国家までを揺さぶるサイバー空間の闇
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
InterviEw1 コロナ感染と相似形 生活インフラを脅かすIoT攻撃
吉岡克成(横浜国立大学大学院環境情報研究院・先端科学高等研究院准教授)
coLumn1 企業を守る手段の一つ リスクに備える「サイバー保険」 編集部
Part2 主戦場となるサイバー空間 〝専守防衛〟では日本を守れない
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員)
Part3 モサド元高官からの警告 「脅威インテリジェンス」を持て
ハイム・トメル(元モサド・インテリジェンス部門トップ)
Part4 狙われる海底ケーブル 中国サイバー部隊はこう攻撃する
山崎文明(情報安全保障研究所首席研究員)
Part5 〝国家〟に狙われる日本企業 経営層の意識変革は待ったなし
川口貴久(東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員)
coLumn2 不足するサイバー人材 「総合力」で企業を守れ  編集部
InterviEw2 「公共空間化」するネット空間 国民を守るために必要な機関
中谷 昇(Zホールディングス常務執行役員GCTSO)

  
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Wedge 2021年12月号より
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる

いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。

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