2024年11月22日(金)

Wedge SPECIAL REPORT

2021年11月20日

国家犯罪とサイバー攻撃
曖昧になる境界線

 こうした身近なところの被害から、国家をも脅かしかねないのが、サイバー攻撃の恐ろしさである。攻撃者は虎視眈々と、入りやすいターゲットを狙っている。脆弱なセキュリティー環境下でのテレワークや、セキュリティー意識の低い中小企業の取引先や関連企業などを入り口に、大手企業、ひいては国の仕事を担う企業にまで潜入を許すことになる。

 そしてサイバー空間では、国境を越え、企業や個人を超えたところにまで影響が及んでいく。国家的な思惑で活動するサイバー攻撃者も少なくない。例えば、日本や西側諸国と敵対するロシアから活動するサイバー攻撃集団は近年、世界でも際立つ存在になっており、ロシア政府や情報機関からの指示で動いている集団もいる。

 筆者の取材に応じた米中央情報局(CIA)の元幹部は、「そもそもロシアのような国ではサイバー犯罪集団の活動は全てロシア政府の情報機関が掌握している」と断言する。つまり、ロシアからの企業などを狙ったサイバー犯罪の中にも、情報機関が背後にいる可能性を認識しておいたほうがいい。

 それは中国も同じだ。政府組織がサイバー攻撃を実施し、金銭目的のサイバー犯罪者を装って基幹産業から知的財産や機密情報を狙う。安全保障的に必要な情報は政府が吸い上げ、知財情報は政府が目を掛ける有望な中国企業に横流ししてきたと指摘されている。

 もはや、サイバー空間に国境がないのと同じく、犯罪と安全保障の垣根もサイバー空間では曖昧になっているということだ。こうした実態を見れば、企業を含むどんな組織でもサイバーセキュリティー対策を重視しなければならないことがわかるだろう。

 政府は9月、今後3年間の「サイバーセキュリティ戦略」を決定し、「誰も取り残さないサイバーセキュリティ」という方針のもと、デジタル改革やDXの推進などに力を入れると表明した。その中で、国家の関与が疑われる攻撃の脅威が高まるとして、初めて中国、ロシア、北朝鮮を名指しした。

 さらに、警察が国内の動きに目を光らせ、効果的な捜査がなされるかも重要だ。警察庁は22年度から、全国のサイバー犯罪を直接捜査する組織を新設し、これまで各都道府県がそれぞれで担当していた形から一歩踏み出す。ようやく「県境」を越えた連携が始まる。

 個人から企業、そして国家までもがターゲットになるサイバー攻撃の脅威。デジタル化とネットワーク化がこれからますます加速する日本で、本気でサイバー対策をしなくては安心して暮らせない時代に私たちはいることを改めて認識する必要がある。

 以降のPARTでは、今やサイバー攻撃が安全保障の重要な手段となっている現実や、セキュリティー感度が高いとされるイスラエルの取り組み、中国のサイバー攻撃の実情を見ていく。さらに企業幹部に求められるセキュリティーに対する考え方や、感度を高める取り組みなどを取り上げ、網羅的にサイバーリスクを概観し、対策を提言する。

(本稿の一部はWedge編集部〈濱崎陽平・鈴木賢太郎〉が取材・執筆)

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