2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年11月25日

 ポーランドの法の支配と司法の独立の問題は10月21日の欧州連合(EU)首脳会議の議題ではなかったが(ドイツは対決の場になるとの理由で討議にすら反対だったらしい)、討議の機会は設けられた。

 メルケルはEUの東西分裂、およびそれがEUを麻痺させる事態を怖れていると言われる。彼女は、「底流にある問題は加盟国それぞれがEUの姿をどのように描いているかにある――『絶えず緊密化する連合』なのか、もっと国家主体のものなのか。これはポーランドとEUの間だけの問題ではなく、他の加盟国の問題でもある」と主張した。そして、問題は裁判所では解決しないとして、対話による妥協の道を探るべきことを主張した。

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 しかし、EUの首脳達は、必ずしもメルケルの説く宥和的な立場に戻ったとは思われない。オランダを筆頭に多くの加盟国がポーランドの司法のあり方が是正されるまでは復興基金の資金供与を見合わせるよう欧州委員会に要求したようである。

 オランダのルッテは「(司法の独立の)問題が解決されるまでは新たな資金がポーランドに提供され得るとは考え難い」と述べた。この間にあってマクロンは慎重に構えている様子である。それは来年に大統領選挙を控え、エリック・ゼムールやマリーヌ・ルペン(後述のバルニエもそのようである)などの主要候補と目される人たちがポーランド問題に刺激され、フランスがその主権をより強く主張すべきことを述べている状況があり、問題が拡大して大統領選挙に波及することを警戒している故だとの憶測が行われている。

 加盟国が互いに対立する状況であるので、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は難しい立場にある。10月28日の記者会見で、彼女は復興基金による資金供与の前提としてポーランドが裁判官の「懲戒法廷」(7月にEU裁判所が違法と判断したもの)の解体にコミットすることを要求するとともに、懲戒の仕組みの廃止ないし改革、および罷免された裁判官の復帰プロセスの開始にも言及した。

 一方、ポーランドのモラウィエツキ首相は、年末までに「懲戒法廷」を解体すると約束したが、それは司法の全面的見直しの一環である(ブリュッセルの圧力に屈した結果ではない)というのがポーランドの立場である。11月3日のポーランド紙の報ずるところによれば、その全面的見直しには「懲戒法廷」の解体だけでなく、最高裁判所の5つの法廷を2つに整理すること――最高裁判所にとどまることを希望する裁判官は国家司法評議会(その独立性をEU裁判所は疑問視している)の審査を受ける必要がある――その他の改変が含まれる由である。司法の独立が疑問視される改変が繰り返される可能性は排除されない。


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