世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年11月25日

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 EUが加盟国の異なるアイデンティティ、伝統、制度に配慮して不必要な容喙を避け、加盟国とEUの権能の境界がどこにあるかに注意することがEUの円滑な運営に必須であることは論を俟たない。最高裁判所の規模を縮小するが如きは本来的にはEUで問題となるべきものではない。柔軟であり得る処は柔軟であるべきである。

 しかし、Brexit交渉の首席交渉官だったミシェル・バルニエの次のような発言は、EUを知悉する人物の発言としては異常である。すなわち、11月4日のニームにおける共和党の集会で、彼は移民の問題について、EU裁判所や欧州人権裁判所の判決に脅かされている状況では対処出来ず、フランスは法的主権を取り戻す必要があると述べた。

ドイツとオランダ率いる北部諸国の対立の様相

 欧州委員会の報道官は、EU法のある処EU法が優越すること、難民・移民の問題はEUと加盟国の共有権限に属し、EU裁判所の管轄権に服する分野であることを指摘している。これは、ポーランドが裁判所について行っている議論と同じことである。問題は一人が切り取ると、もう一人にとっては穴を意味することである。かくして、ほどなくして、EUの法秩序は穴だらけとなりかねない。

 問題はポーランドとEUの対立にとどまらず、メルケルのドイツとオランダが率いる北部の諸国の対立を軸とする加盟国間の対立の様相を帯びているように見える。もし、いい加減な妥協でお茶を濁し、復興基金による資金供与を認める解決となるのであれば、オランダなどの反撥は激しく、復興基金の成否あるいはコロナウイルス危機後の財政のあり方の論議に深刻な影響が及ぶことすらあり得よう。

 法の支配と司法の独立のような基本的な問題について、メルケルが落し処の見えないまま妥協を説くことは宥和政策であり、増長を招く。甚だしく危険なことではないかと思われる。

  
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