2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年11月9日

 ポーランドの法の支配あるいは司法の独立を巡るEUとポーランドの確執は、10月7日の憲法裁判所の判決により、遂に決定的な対決に至ったようである。憲法裁判所はEU法にはポーランド憲法と衝突する規定があると述べて、EU法に挑戦し、EU法の国内法に対する優越性を否定した。

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 憲法裁判所の判決は、EUの更なる統合の推進を謳ったリスボン条約第1条、自由、民主主義、法の支配などEUの基本的価値を謳った第2条を含む4つの条はポーランド憲法と相容れないと述べている。EUは「ポーランドがEU諸条約で権能を移譲した限界を超えて」行動している、また、EU裁判所はポーランド憲法より「不法に」優位に立っている、とも述べている由である。

 しかし、加盟国は加盟に当りEU法にコミットしているのであり、もとより、順守・不順守を規定毎に選択できる立場にある訳ではない。EU法の優越性を否定されては、EUの法的秩序は崩壊する。

 10月19日、欧州議会でステートメントを行った欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は「判決を注意深く検討している」としつつも「欧州委員会は行動する」と述べて、3つのオプションに言及した。

 第一は、憲法裁判所の判決をEU裁判所で争うこと。第二は、復興基金創設に合わせて導入された資金援助と法の支配との間にリンクを設ける「コンディショナリティの仕組み」およびその他の財政的手段。第三は、EUの基本的価値の違反を理由として理事会における投票権の停止に至り得る条約7条の制裁手続きの発動である。

 これらオプションのうち、第一と第三の2つは間違いなく徒労に終わるであろう。ポーランドはEU裁判所の判決の拘束力を無視して来ており、EU裁判所に訴えることは無駄である。すべての加盟国の同意を必要とする条約7条の制裁が成立する可能性はハンガリーに阻まれて存在しない。

 唯一、効果があり得る手段は第二の財政的手段である。フォン・デア・ライエンは、「復興基金を中核とするEUの復興支援は2兆1000億ユーロに達するが、これは欧州の納税者の資金であり、EUとして経済復興に投資するのであれば、EUの予算を法の支配の違反から守らねばならない」と述べた。

 ポーランドは復興基金に対して239億ユーロの贈与と121億ユーロの融資を申請しているが、欧州委員会は承認を見合わせている。承認を停止するための法的根拠の有無の問題はあろうが、フランスやオランダの強硬姿勢もあり、欧州委員会が現状で支援を実行することはまずあり得ないであろう。


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