2024年12月8日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年11月26日

 10月22日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は社説で、核軍拡競争を避けるために、米中は軍備管理の枠組みを見つける必要があり、米国は軍事でも中国を対等な国として待遇する必要があると述べている。

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 この社説は、中国による核搭載可能な極超音速飛翔体の実験を踏まえて、米中は軍備管理のための枠組みを見つけるべきだと述べる。全くその通りだと思う。 

 社説は、米国が米中均衡を見つけることよりも大幅な軍事的優位を維持しようとすれば軍拡に油を注ぐことになる、米国は軍事でも中国を対等な国として待遇する必要があると主張するが、この議論にはいささか違和感を覚える。FTが、あたかも中国は米中均衡まで保有核の増大を権利のように認められるべきということには、同意し難い。

 中国は1960年代にソ連などの反対を無視して核開発を強行し、核保有国になった。また中国は核拡散防止条約(NPT)締約国として核軍縮交渉の義務を負っており、その下で保有核を現状以上に増やさないことは最低限の義務というべきだろう。

 世界は全体的利益のために核保有国と非保有国の間の不平等を受け入れている。中国が対米均衡まで核の増大を許されるべきだと受け止められるような議論は受け入れ難く、またその理由は何処にも見つけられない。中国は、しばしば「大国だから大きな軍事力を持つのは当然だ」との論理を言うが、それはおかしい。中国は少なくとも保有核レベルを凍結し、米露に向かって核軍縮を求めるべきだ。

 中国は米国が攻撃的だから防衛力が必要だというかもしれないが、戦後の歴史をみればそれは必ずしも正しいとは言えず、今の中国程攻撃的な軍事的、政治的行動をとっている国はないように思う。覇権的行動を進めているのは中国であり、中国の東シナ海や南シナ海における行動を見れば分かる。中国は軍事超大国への道ではなく、他国に脅威を与えない新たな大国としての道を進むべきではないか。 

 それでも中国は核軍備管理にはなかなか参加しないだろう。しかし世界は中国を核軍備管理の枠内に入れるように辛抱強く努力する必要がある。第一に、国際社会はそのために国際的圧力を掛けていくことが重要である。

 第二に、米中戦略軍事対話などを強化すべきである。容易ではないが、米露中英仏の五大核保有国による対話、軍備管理の枠組みを立ち上げることも考えるべきかもしれない。そこで核の現状凍結が合意できれば第一歩になる。

 第三は、中国が自らの政策選択で、あるいはコスト増などに強いられ、軍備管理・軍縮に向かうようにする。そのためには注意深く日本を含む西側の抑止力を強化していくことも同時に必要である。その際「安全保障のジレンマ」 ということが言われるが、軍拡にならないように注意することは言うまでもない。要するに、中国を軍備管理の枠に取り込むためには、抑止と対話が不可欠ということであろう。 


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