各企業で進んでしまった「自己流」のシステム開発
1点目は、標準化である。日本の、特に社内業務におけるDXでは、メインフレームやオフコンの時代からそうであるが、コンピュータの持つ高速な処理能力を使って、より細かな個別対応を行う方向に進化してきた。具体的には、財務経理のシステムと、人事給与システムである。
各企業は、それぞれに過去の経緯の集積として異なった企業風土を持ち、その風土に見合う業務のスタイルを持っていた。1970年代から2000年代にかけて、コンピュータの導入が進む中で、各企業はその業務スタイルの独自性をそのままに、コンピュータの能力を使って、業務のより高度化、精緻化に向かっていった。
業容を拡大し、事業を多角化すれば、同じ社内でも異なった原価計算、異なった勤務形態が生まれるが、そうした管理業務の複雑化に対しても、電算化によって対応がされた。その結果として、財務会計のシステムも、人事給与システムも企業の数だけのバリエーションがあり、それが複雑化していったのである。
現在、同業間で合併した企業が、統合後の基幹システムの不具合に悩む事例が話題になっている。この案件に関しては、経営陣のITに関する知識不足であるとか、系列取引による複数ベンダーとの関係を並行して継続しなくてはならないといった問題点が指摘されているが、そもそも同じような業態の企業間で、全く異なった「自己流」のシステム開発が進行したことに原因があると思われる。
問題は中小企業である。中小企業の場合は、どうしても管理業務に割けるコストは限られてくる。そこで、独自の財務会計のシステムの導入は難しい。では、既存の汎用ソフトや標準化されたクラウド上のサービスを使おうとすると、その企業が独自に進めてきた帳簿付けの習慣や、税理士との関係で判断してきた経緯などとのズレが生まれる。そんな理由からDXによる効率化を断念するケースが多いようだ。
もっと不思議なのは、管理業務の中でも人事給与管理の問題だ。財務会計から比べると、原理は単純なはずだが、ここでも計算方法から帳票の管理まで、多くの企業が独自の事務スタイルを持っている。中小企業の場合は、社会保険労務士の指導を受けて進めているケースも多いが、細かな実務はかなりバラバラである。
汎用ソフトに企業が合わせる米国
米国の場合は、民間の給与計算機能というのは社内で持つものではなく、数人のスタートアップ企業から従業員数十万単位の巨大企業まで、給与の計算と決済は外部委託するのが普通である。特に、給与計算事務大手のADP社の場合は、全米の民間企業の12%の給与計算を代行しており、特に大企業の中では80%というシェアを獲得している。その結果として、毎月ADPが発表する数値が「民間雇用統計」として国の重要な経済指標になっている位だ。
つまり、米国では給与計算という業務はほぼ100%外注化されており、外注するための労務管理から給与計算の元に至るデータ作成も標準化されているということになる。
更に米国の場合、中小企業向けには財務会計と集金業務を一体化した、ウェブ上のクラウドとソフトのサービスが急速に普及している。物販にしてもサービスにしても、代金回収はクレカで行い、その集金システムと一体化したウェブ上のサービスで帳簿の管理から決算、税務申告などが一貫して可能になるサービスだ。これなら、数人単位で起業した場合にメンバーは開発や営業などの業務に専念できる。
つまり、各社バラバラに自己流で複雑化している仕事にコンピュータの能力を消費するのではなく、コンピュータの能力を最大限に効率化に結びつけるために、業務を標準化するのである。この標準化による効率化が、もっともっと進められるべきだ。