2024年4月24日(水)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2021年12月6日

 民間の事例でお話ししたが、地方公共団体における業務、学校現場における業務なども全く同じである。汎用のソフトで、一気に業務を効率化するには、業務を標準化するという変革が大前提となる。

厳格な法律が生む「グレーゾーン」

 2点目は法律と商慣習の簡素化である。日本の場合、財務会計にしても、労務や人事給与管理にしても、どうしても各企業が「自己流」の業務に陥ってしまう背景には、法律や制度が厳格に過ぎるという問題がある。つまり、税法や労基法が杓子定規で実態に合っていないとして、昔から企業が「グレーゾーン」を設定して、「本音と建前の別運用」をしてきたのだ。

 例えば、売上計上のタイミングをどうするのか、出費のどこまでを税務上の費用と認識するのか、それぞれに企業独自の判断が入る余地がある。労働基準法に関しても、残業手当を払うべきかとか、休憩時間や手待ち時間を労働時間に算入するかといった問題には「グレーゾーン」がある。専門家であるはずの税理士や社労士にしても、多くの場合は「企業側に立った判断」をしてくれるわけだが、その判断は人によって幅がある。

 そんな中で、「法律という建前」と、「現実という本音」の間には乖離が出てくる。その隙間のグレーゾーンにおいて、企業はできるだけ企業存続のために有利な判断をしたがるが、その部分はまず企業ごとの自己流の判断だから、標準化できないし、まして外部委託もできない。そこで、DXの効率化の恩恵も受けることができない。

 つまり、法律は厳格に過ぎるし、実態は柔軟に過ぎるのであり、また実態は企業によって千差万別、そのくせ各企業は「ホンネの運用」を社内秘として囲いたがる。あまりにも人間臭い運用であり、「ゼロか1か」が赤裸々になってしまうコンピュータとは相性が悪い。

 これは、日本の企業体質に遵法精神が欠けているからではない。多くの場合、法律や制度が厳格に過ぎることに原因がある。そこを見直し、中小企業から大企業まで、経理も人事も全てが公明正大で、堂々と標準化と外注化ができるようにしなくては、いつまでもDXの恩恵を100%発揮することはできないであろう。

   
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