中国からは「御しやすい相手」に
さらにトランプ氏個人の対中姿勢は、こうした〝微笑外交〟だけにとどまらなかった。
19年6月、大阪での主要20カ国・地域首脳会議(G-20サミット)の際に行われた米中首脳会談では、トランプ氏は両国間の重要懸案そっちのけで、もっぱら20年米大統領選への展望に話題を割き、自らの再選のための「手助け」を習近平氏に依頼。その見返りとして中国側に対し、米政府として中国の新疆ウイグル自治区における人権抑圧問題などに対する批判を控えることを約束していた。この驚くべき事実は、会談に同席していたジョン・ボルトン大統領補佐官(当時)の回想録で明らかにされている。
ボルトン氏は具体的に著書の中で「大統領は、中国の購買力が莫大であることを理由に、習近平主席に対し『自分が来年の選挙で再選を果たすために、(票田である)米中西部の大豆や麦を買い付けてもらいたい』と直訴すると同時に、大統領は中国政府が新疆ウイグル自治区内に反政府分子を収容するキャンプ建設を計画していることについては、『誠に当を得た措置であり、計画を推進すべきだ』として同調の姿勢さえ見せた」などと暴露している。
まさに、中国に対する恥知らずの〝おねだり外交〟ともいうべきものだったのだ。
その結果、トランプ政権は中国政府から「御しやすい相手」と見くびられるに至った。
コロナ対策でも中国を支持
米月刊誌「The Atlantic」(18年3月号)は、中国側の対トランプ評価について「中国共産党は、大統領がたまに中国非難をしたりしても、それがたんなる見せかけにすぎないことを熟知しており、〝ディール〟(取引)好きな性格の持ち主であるだけに、彼から妥協を引き出すことも極めて簡単だ、と受け止めてきた」との共産党幹部によるうがった論評まで紹介している。
さらに政権末期にも、大統領は世界中に拡散したコロナ禍関連で、世界保健機関(WHO)などの国際機関を批判する一方、中国側の取り組み姿勢に対しては「コロナ封じ込めのために実によくやっている。米国民を代表して習近平主席に感謝を申し上げたい」などと、前後15回にわたり〝賛辞〟のエールを送ったことが確認されている(米デジタルメディア「Politico」(20年4月15日付け)
このような大統領とは裏腹に、マイク・ポンペオ国務長官ら当時の関係閣僚は中国に対し、大統領とは別ルートでより厳しい姿勢を貫いてきたことは事実だ。しかし、肝心のホワイトハウスが半ば〝腰くだけ状態〟で足元を見透かされ、結果的に香港民主化運動の締め付け、台湾海峡、尖閣諸島海域などでの威嚇行動のエスカレートなどにみられるように中国側にフリーハンドを与えてきたというのが、実相にほかならない。
「トランプ政権は対中強硬姿勢を貫いてきた」などというのは、誤解も甚だしい。
対してバイデン政権の姿勢は?
対照的なのが、バイデン政権の対中政策だ。
バイデン大統領は就任当初から、習近平体制下の中国を自由主義世界と対比させ、ズバリ「専制国家」と断じるなど、厳しい対中姿勢を打ち出してきた。そして①世界主要国との同盟関係再構築②米国経済と民主主義体制強化③中国との「対峙と協力」分野の仕分け――を3本柱とした一貫性のある姿勢を示してきた。
この中で前政権との違いが一段と明白になったのが、同盟諸国との関係強化であることは言うまでもない。