2022年7月1日(金)

近現代史ブックレビュー

2022年2月17日

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筒井清忠 (つつい・きよただ)

帝京大学文学部長

1948年大分市生まれ。帝京大学文学部長・大学院文学研究科長。東京財団政策研究所上席研究員。専門は日本近現代史、歴史社会学。『昭和十年代の陸軍と政治』(岩波書店)、『二・二六事件と青年将校』(吉川弘文館)など著書多数。

宮城占拠事件の真相

 次に軍法会議録の意義の一例を具体的に書いておくことにしよう。『Wedge』(2021年9月号)に載せた宮城占拠問題のことを挙げておくとよいだろう。二・二六事件をめぐる大きな謎に青年将校はなぜ宮城占拠をしなかったのかということがあった。事件に詳しいとされた人が、占拠計画はあったが、かれらはどこまでも秘密にしており裁判でも全く触れていないと主張していたものであった。しかし、(その時にも少し触れたが)正確に紹介すると軍法会議録の栗原安秀中尉の訊問調書には以下のようにあるのだ(00353100-0059)。

「問 宮中の外廊を押えるという計画はあったのではないか
 答 それはありましたけれども宮中に向けて彼是(かれこれ)するのはよくないというので遣(や)らぬことになったのであります」。

 秘密どころか、計画を検討したが「遣(や)らぬことになった」と明確に述べられているのである。どうして彼らの結論がそのようになったのかについては後述の拙著に書いてあるので参照されたい。

 なお、最近海軍側の資料が発見されたとしてNHKで放送されたが、事件の研究に長期的に従事した者が加わっておらず、軍法会議録もチェックされていない、疑問が極めて多いものであった。

 例えば、事件計画の中心人物(「事件の首謀者」)とされた人名が挙がっていたが、こうした計画の中心人物についはすでに憲兵など治安維持担当者は以前から把握しており、尾行などが行われていたのはよく知られたことである。そうしたこれまでの研究が明示されていないのは奇妙でさえあった。懸案の文章はどういう書類・用紙のどこにどういう文脈で書かれたものなのか、この点が明示されていなければ資料価値や成果の意義が判定できないのである。この資料の全文の公開を見た上で本格的検討・批判をしたいと思っているがなされないのであろうか。NHKの放送内容は公共性が高いだけに、早くこうした状況を改善し資料を国民の共有財産にしてもらいたいものである。

優れた成果はゼロではない

 最後に、最近の優れた研究成果がゼロではないことを著しておきたい。事件以前の青年将校運動と共産主義運動の関係について新しく意欲的な発見をした加藤陽子『天皇と軍隊の近代史』(勁草書房、2019年)や青年将校運動の内部を再検討した福家崇洋「二・二六前夜における国家改造案 : 大岸頼好『極秘皇国維新法案前編』を中心に」(『文明構造論 : 京都大学大学院人間・環境学研究科現代文 明論講座文明構造論分野論集 (2012), 8: 1-80』)のような成果がある。また、私の著作としては『二・二六事件と青年将校』(吉川弘文館、2014年)があるので参照されたい。

 
 
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PART2 ノルウェーだって苦しかった 資源管理成功で水産大国に
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 Column 2   原始時代から変わらぬ日本の釣り 科学的なルール作りを 
茂木陽一(プロ釣り師)
PART3 70年ぶりに改正された漁業法 水産改革を骨抜きにするな 編集部
PART4 「海は俺たちのもの」 漁師の本音と資源管理という難題
鈴木智彦(フリーライター)
PART5 行き詰まる魚の多国間管理 日本は襟元正して〝旗振り役〟を
真田康弘(早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授)
PART6 「もったいない」を好機に変え、日本の魚食文化を守れ!
島村菜津(ノンフィクション作家)
 Column 3  YouTuber『魚屋の森さん』が挑む水産業のファンづくり 
森 朝奈(寿商店 常務取締役)
 Opinion  この改革、本気でやるしかない  編集部

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Wedge 2022年3月号より
魚も漁師も消えゆく日本
魚も漁師も消えゆく日本

四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか

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