S.N.さんの言葉にK.H.さんが続けた。
「危ないってことですか」
「実は今までの研究でも、はっきり何%を超えたら危険だということはわかっていなんです。ただ、おおよそ10%が境になると考えています。それ以上だと骨折の危険が高いと診断して薬での治療も相談していきます。お二人はどう思いますか」
骨折リスク評価で骨折を減らす家庭医の取り組み
3人で相談した結果、英国の家庭医の診療も参考にして、生活の中で骨を丈夫にできること(食事・運動など)に心がけて、2年後に骨折のリスクを再評価しようということになった。
ちなみに、私のよく知る英国家庭医たちが、地域で骨折リスクを評価するスクリーニングによって(すべての骨折ではないが)股関節の骨折を減らすことができた研究結果を英国の医学雑誌『ランセット』(2018年)に発表している。その後、このスクリーニングの費用対効果が良い(より少ない費用でより良い効果がある)ことを示す研究発表も続いており有望である。
転倒に関しては、その時の話し合いの際に、長女を亡くしたことで眠れない日が続き東京で処方された睡眠薬を時々飲んでいたことがわかった。睡眠薬を飲んだ翌日に頭がぼーっとして、日中でも眠くなりソファに座っていられなくなったようだ。睡眠薬はやめてもらい、悲嘆の気持ちを傾聴していくことを保証した。
その後の1カ月、昨日の受診まで、K.H.さんは転ぶことがなくなった。睡眠薬はやめたがなんとか眠れている。もともと明るい性格の人だったようだ。昨日は、長女の死を悼む気持ちも示しつつ、私にこんなことを言って微笑んでくれた。
「悲しいことがあっても、会津の起き上がり小法師みたいに、人生七転び八起きですね」
私事で恐縮だが、十日市の翌日、1月11日に私もものの見事に転倒してしまった。住宅から駐車場へ降りる戸外の階段で、以前に積もっていた雪が一旦溶けて再度ツルツルに凍ったところを夜の間にうっすらと積もった新雪が隠していたのだ。7段ある階段を下まで滑り落ちた。「七転八起」どころか「七転八倒」である。転倒予防を勧める自分が転んでいては「本末転倒」だ。幸い、厚いダウンコートを着ていたこともあり、ほとんどダメージはなかった。