期待値を上回ることができて初めて『ありがとう』と言ってもらえる
そんなとき、古巣のANAからオファーがあり、復帰を決意する。そして、2017年にイノベーション推進部を任されることになった(当時はDXという言葉はなく、イノベーションという言葉が使われていたという)。その時のIT部門は、業務サイドからの要望に対してソリューションを考える「受け身」の姿勢だった。
「だから、100%の仕事をして結果を出してもやって当たり前、『ご苦労様』と労われるくらいで、『ありがとう』とは言ってもらえませんでした。データやテクノロジーの力を使うことで、業務サイドの発想を超え、期待値を上回ることができて初めて『ありがとう』と言ってもらえるのです。どうせやるなら感謝されるよう結果を出していきたい、そのためにはまず、ITチームの意識と行動を変える必要があると考えました」
そこで野村さんが打ち出したのが『五輪の書』だ。
「風の巻」 ①イノベーションを起こしやすい環境を自ら作ろう。
「水の巻」 ②失敗を恐れず、行動したことを誇りに感じよう。
「火の巻」 ③熱い思いを持ち続けよう。
「土の巻」 ④きれいな花を咲かせるための土壌に着目しよう。
「空の巻」 ⑤互いにリスペクトし、チームで成果を分かち合おう。
本当に失敗を許容してくれるのか?
さて、ここまで聞くと、「お題目」は良いが、「本当に失敗を許容してくれるの?」という疑問を持つ人も少なくないだろう。それについても野村さんの答えは明確だ。
「人を動かそうと思ったら、リーダーがリスクを取らないとダメです。理想を掲げるのであれば、それ対して、自分で責任を取るということです。幸いと言いますか、私の場合、出戻り社員ですから、そもそも失敗が怖くないということもありますが(笑)。五輪の書は、評価指標でもあるのです。失敗しても、65点だったとしても、動いた人が評価されるのです。『早く着手すれば失敗しても挽回することができる』という意識、文化を作ることが大事です」