2024年12月3日(火)

DXの正体

2022年2月10日

  • 年間8万件にもなる遺失物をクラウドに上げて関係者が共有できるようにする。
  • 預けた手荷物がターンテーブルからいつ出てくるか知らせる。
  • アプリに『旅のしおり』機能を追加する。
 

 今回の訪問先は総勢4.4万人の社員がいる、全日本空輸(ANA)だ。上記は、ここ数年でANAが進めてきたデジタルトランスフォーメーション(DX)のほんの一部の事例だ。これまで中小企業やスタートアップのDX事例を紹介してきたが、企業や組織の規模が大きくなると、計画倒れに終わったり、実行するまでに時間がかかったりすることが少なくない。

 そんな中、日本を代表する企業であるANAではどのようにDXを会社全体で進めたのか? 先に答えを言ってしまえば、「責任を取るリーダー」がいて、「継続してDXを進めるための仕組み」を作った。この2つさえあれば、大きな組織でも次第に人々が巻き込まれ、自発的に問題意識を出すようになる。ANAのDXを推進したリーダーである野村泰一イノベーション推進部部長に話を聞いた。

羽田空港出発ロビー(ANA提供、以下同)

飛行機に乗ったことがないけれど、航空会社に入社

「私は、もともと国鉄に入社したかったのですが、国鉄が民営化されJRになるのが社会人になる年と重なってしまい採用がなかったんです。だから、それまで飛行機には乗ったこともなかった航空会社に入ることにしました(笑)」と、のっけからエアラインの社員らしからぬ発言をする野村さんだが、これがご本人の人柄をよく表している。

 野村さんは入社後3年間営業を担当したあと、情報システム本部へ異動する。当時黎明期だったITを使ったサービスを開発するためだ。その経験を活かしたのが、今では当たり前になっている「ネット予約」「コンビニでの航空券発券」といったサービスだ。

「当時は、こんな危ない方法で予約はできないという批判もいただきました。ただ、そんなクレームも含めて、直接お客様とやりとすることが価値になるということに気がつきました。当時の営業の大半はディスリビュターさん(旅行代理店など)にお願いする状況でしたから」

 クレームなどのマイナス要素をプラスに考える姿勢も、後に野村さんがDXチームを率いるときの強みになる。この後、野村さんはチケットレスの「スキップサービス」を実現させるなどして、2011年、ANAを退職してLCCのPeachに転職する。そこではたった1年で事業を開始するという「ベンチャーのスピード感」を体験することができたという。ピーチはその後わずか5年で黒字化を達成するなど、存在感を高め注目を集めていった。

野村氏(右)と筆者

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