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2022年2月21日

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滝田洋一 (たきた・よういち)

日本経済新聞社特任編集委員・テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』解説キャスター

1981年慶應義塾大学大学院修了後、日本経済新聞社に入社。金融部、チューリヒ支局、米州総局編集委員などを経て現職。2008年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。近著に『コロナクライシス』(日経プレミアシリーズ)。

上場基準達成のために
経営のあり方を見直す企業も

 こうみると、世の中の関心はいきおい、プライム市場を選択したものの、条件を満たしていない296社に集まる。焦点となるのは、これらの企業が東証に提出した「上場維持基準への適合に向けた計画書」だ。

 各社の計画書を読むと、「市場再編を機会にさらなる経営改革を進めようとしている企業も少なくない」と大和総研政策調査部の神尾篤史主任研究員はいう。確かに興味深い企業が散見される。

 例えば、建材や電子部品の商社である高島。計画書によれば、流通株式時価総額は47.9億円と、プライム市場の上場基準である100億円の半分近くにとどまる。1日当たり売買代金も683万円と、プライム市場の上場基準の2000万円の3分の1あまり。

 こうした状況の解消を、次の中期経営計画が終了する26年3月期末までに達成する、と具体策を示す。その手段は、①外部負債を活用した積極投資と②株主への利益還元の推進だ。

 ①の投資戦略については、M&A、工場・設備、人財、ITなど重点分野に、70億円規模の投資枠を設定する。脱炭素社会への移行をビジネス機会ととらえた投資額は過去5年間の投資の2.5倍規模にあたる。

 一方、②株主への利益還元は、配当や自社株買いで50%の総還元性向を目指す。連結配当性向は40%以上、機動的な自社株式取得と消却、5億円という総還元額の下限設定などだ。利益をキャッシュとして抱え込まず、株主に戻すことで、投資妙味を高める方針だ。

 プライム市場の上場基準達成のために、経営のあり方全体を見直した高島のような例は、モデルケースといえるかもしれない。とはいえ、積み残した夏休みの宿題のように、基準達成の時期を後ズレさせていくような企業が、投資家から厳しい選別の対象になるのは避けられない。そのことを誰よりも認識しているのは経営者自身だろう。

 流通時価総額の前提となる流通株が少ないことが足かせとなった企業も目立つ。それを理由にスタンダード市場を選んだ東証1部企業は先に述べたが、JASDAQ上場企業にも同じ悩みを抱えているところが少なくない。

 基幹データ交換サービスを提供するプラネットはそのひとつ。グロース市場ではなく、スタンダード市場への上場を希望している。同社の計画書によれば、ボトルネックは流通株式比率。スタンダード市場で求められる比率は25%だが、18.4%にとどまっている。

 この流通株式比率を高めるために、プラネットはアッと驚く計画を示した。創業来の出資者や取引先の企業に、同社株の売却を申し出るというのだ。安定株主になるための株式取得のお願いは珍しくないが、企業名を上げた株式売却の要請は、極めてまれである。

 ライオン、インテック(ともに出資比率16.08%)、ユニ・チャーム、資生堂、サンスター、ジョンソン、エステー、日本製紙クレシア、牛乳石鹸共進社(いずれも出資比率4.54%)。名だたる企業への株式売却のお願いは市場関係者の間でも話題になっている。投資家の裾野が広がれば、東京株式市場も活性化するからだ。


 さらに今回の東証再編は、マザーズやJASDAQに上場する企業に対して、プライム市場への上場意欲を刺激した面もある。マザーズ上場企業はそのままならグロース市場に横滑りとなるが、メルカリは1月14日、東証にプライム市場への変更を申請した。

 メルカリはこの1年で採用した開発人材の約7割が外国籍と、普通の1部上場企業よりはるかにグローバル化が進んでいる。プライム市場への申請について、同社は「強固な経営基盤の確立や企業価値自体の向上も狙いたい」と説明している。こうした動きも東京株式市場に刺激を与えるはずである。

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