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2021年1月15日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

(show999/gettyimages)

 昨年末で東京証券取引所の世界最大の株主となった日銀は、この株式をいつまで保有し続けるのか。株高が続く東証市場だが、いまこのテーマがクローズアップされてきている。そこで、日銀が手持ち株式を売る「出口戦略」の提案をしたニッセイ基礎研究所金融研究部の井出真吾上席研究員にインタビューした。

――直近のデータで日銀は東証のどれくらいの株式を保有しているのか。

井出上席研究員 昨年12月末現在で、東証1部の約7%、時価にして46兆8000億円を保有している。これまで最大株主だった、私たちの積み立てた年金の管理運用をしている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の保有株を抜いて、世界最大の株主となった。

――GPIFも大量の株式を保有しているが、GPIFと日銀とでは株式保有の目的が違うようだが。

井出上席研究員 GPIFは積み立てた年金資産を守ることが責務になっている。このため、購入した株式を売却して利益を出すこともある。かつては国債を持っていれば必要な利回りをある程度確保できたが、実質金利がマイナスの現状では、年金資産を目減りさせないためにもGPIFが多少のリスクを取っても株式を持つのは仕方のないことだと思う。一方の日銀は金融資本市場を安定化させるという目的を達成するために、株式を保有しているという立場だ。GPIFは投資運用、日銀は金融政策のためで、株式保有の目的がまったく違う。

 GPIFは昨年7~9月期に数千億円の株式を売却したといわれているが、いつでも売るということが市場や企業に対してけん制になっている。一方の日銀は買うだけの一方通行なので、さまざまな批判や矛盾が出てくる。

――日銀はどういう形で購入、保有しているのか。

井出上席研究員 2010年の12月から株価指数連動型上場投資信託(ETF)という形で実質的に株を保有している。つまり個別の株式を買うのではないので、一般の投資家が投資信託を買うのと同じだ。初めのうちは買入額の半分以上が日経平均連動型ETFだったが、現在は8割を東証株価指数(TOPIX)連動型ETFを買っているので、東証1部の全銘柄を機械的に購入していると言える。その意味で日銀の株の購入には、恣意性はない。

――欧米の中央銀行で株式を保有している事例はあるか。

井出上席研究員 米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)もない。国債、社債は保有しているが株式はない。社債と株式の大きな違いは、社債は満期が来たら償還されるが、株式には満期がないから、日銀が売るというボタンを押さない限りは、いつまでも日銀のバランスシートに株式が残り続けることになる。その結果が時価総額の7%も保有することになっている。

――購入の規模はどれくらいになっているのか。

井出上席研究員 買い始めた10年当時は年間の購入上限額が4500億円だったが、「異次元緩和」を唱える黒田東彦日銀総裁が就任した13年4月には1兆円ペースに拡大、14年10月末には3兆円に、16年7月29日には6兆円に急拡大した。さらに20年3月16日には新型コロナ感染による株価急落を受けた金融政策決定会合で、買い入れの上限枠を12兆円にまで拡大可能にした。6兆円に増やしてから、止めようにも止められなくなったという感じがする。日銀によると、19年は年間で58回、合計で4兆880億円、20年は同71回、6兆8450億円のETFを購入している。しかも日銀は買い一辺倒で、これまで売ったことはない。

――日経平均株価は昨年末から堅調に推移して、30年ぶりの高値水準にまで回復してきた。年明けから日銀のETFの買入額が明らかに減ってきているようだが、この意味するところは何か。

井出上席研究員 1月4日に日銀が購入したETFは501億円で、前回の昨年12月30日の701億円より1日当たりの買入額が3割ほど減少している。少なくとも買い入れのペースをこれまでより下げてきているようだ。その理由は2つあるのではないか。ひとつは、株高で東証が30年ぶりの水準を回復したこと。2つ目は、日銀の周辺でも買い続ける姿勢に対して懐疑的な見方をする人が増えてきて、市場関係者、日銀OBだけでなく、昨年末には国会で「株価が堅調に推移しているにもかかわらず、日銀がETFを購入する意味はあるのか」といった大量購入を疑問視する意見も聞かれた。このため、日銀が少し方針を転換して様子を見ているのではないか。

――日銀が株価急落の局面で買い支えたり、日ごろから大量の株式を買い続けることの株式市場への影響は何か。

いで・しんご 1993年に日本生命保険に入社、99年からニッセイ基礎研究所に出向、2018年から上席研究員。専門は株式市場・株式投資・マクロ経済分析。51歳。神奈川県出身。

井出上席研究員 個別株への影響という面は検証できないが、株価全体には影響があるのではないか。例えば、昨年3月にコロナショックで株価が1万6000円台まで急落した局面で、もし日銀が買い支えていなかったら1万5000円割れまで下がっていたかもしれないという見方がある。その中である投資家はもっと下がってから買うつもりだったのに、日銀が買い出動したために、チャンスを逃す羽目になったと不満の声を投資家からよく聞いた。つまり狙っていた獲物(急落した株)を、目の前で日銀に奪われてしまった。日銀が買うことにより、確かに株価の谷底を浅くするメリットはあるかもしれないが、市場の正常な価格形成機能を歪めてもいると言えるのではないか。

 また株価の変動が少なくなることで、企業経営者にとっても株価急落のリスクが少なくなり、ひいては企業経営者の経営に対する気が緩みかねない。日銀という売らない株主がいることで経営者は安心する可能性が指摘されている。中には20%以上も日銀が保有している企業もある。

――日銀はこの株式購入を今後も引き続き行い、株式の大量保有を継続する方針のようだが、これに対するご意見は。

井出上席研究員 このペースで買い続けるとETF残高が50兆円に達するのは時間の問題だが、その方針には私は大反対だ。現実問題としてすぐに買い入れを止めることはできないので、まずは年間6兆円の日銀の買入額を可能な限り減らすこと。次は過去に購入した47兆円のETFを少しずつ売却していくこと、この両建てが必要だと思う。

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