コロナ禍の影響で中堅・中小企業の後継者問題がこれまで以上に危ぶまれている。そうした中で、中堅・中小企業を中心に株式譲渡や事業譲渡を含むM&Aの仲介をしているM&A総合研究所(東京都港区、佐上峻作社長)は、業界で初めてとなるAI(人工知能)を活用して売りたい、買いたい企業の候補先を即座にリストアップしてマッチングを実行し、M&A案件を短期間に成立させている。
廃業リスク高い中堅・中小企業
東京商工リサーチの調査によると、2016年以降、毎年4万社以上が休廃業・解散しており、今後は経営者の高齢化などによりさらに増加が見込まれている。帝国データバンクによると、同社が持っている企業データベースのうち19年は65・2%が後継者不在となっており、経済産業省の試算では、後継者問題が解決しない場合、2025年頃までに最大約650万人の雇用と約22兆円分のGDP(国内総生産)が喪失されるとしている。こうした企業は買収する企業が現れない限りは廃業になってしまう可能性が高くなる。
その代表例が4月に152年の歴史の幕を閉じた、東京・東銀座の歌舞伎座前の弁当屋として有名だった「木挽町辨松」の突然の廃業だった。歌舞伎の関係者らが老舗の廃業を惜しんで、暖簾を守るため譲渡先を探したが見つからなかった。
一方、日本のM&Aの件数はコロナ禍の中で増加傾向にはあるが、19年で4088件しかなく、中堅・中小企業の多くが独自技術・ブランドが継承されることなく消滅している。これを救うには、どんな企業がどのような技術を持っているかをデータベース化して、こうした技術がほしい企業に買ってもらうしかない。
M&A総合研究所は全国100万社以上の企業データベースから、売りたい買いたい中小企業に対していくつもの選択肢を即座に提供できるシステムを構築している。
佐上社長は大学卒業後、サイバーエージェントのグループ会社で広告配信システムDSPのアルゴリズム開発に従事し、広告を見た人がどのくらいの割合で品物を購入するかなどを分析するシステムを手掛けた。その後、関与したM&Aの仲介ビジネスは効率が悪いのを痛感し、AIを活用して効率の良い仲介ができないかと考えた。
そこで、日本のAI技術のリーディングカンパニーであるPKSHA Technology(パークシャ テクノロジーズ)のファンドとの資本提携により、M&Aマッチングに活用可能な独自のAIアルゴリズムを開発し、これまでにはない新しいM&A仲介会社を立ち上げた。
M&A業界の人材の多くは銀行や証券会社出身で、それまでの経験に基づいて買い手候補リストを作成し、売り手に対して電話や訪問により提案するのが通常のマッチングのやり方だった。
想像できない組み合わせを提案
これまでのマッチングの手法について佐上社長は「人手に頼るとリストの作成などに時間が掛かり、ヒューマンエラーで買い手候補のピックアップ漏れが発生する。自社開発のAIマッチングアルゴリズムを使えば、全国100万社以上のデータベースを基に最短1日でマッチングができ、人間では想像できないような組み合わせの成約につながる。直近では、IT企業を不動産会社が買収した事例がある」と実績を強調、異業種間のマッチングも増えているという。
同業種同士のマッチングでは予想がつくが、異業種の場合は思わぬところに買収のメリットがあるため、容易に見つからないことが多いという。これをAIで探すことで買いたい企業、売りたい企業に対して豊富なメニューを提供でき、結果的に成約率の向上につながっている。
これまでのやり方では成約できる確率が低いため、年間で担当者1人当たり1、2社が限界だったが、M&A総合研究所ではマッチングが迅速にできることで最短3カ月で1件成約できるほどスピードアップすることができるという。
効率的な仲介ビジネスを行うことで、M&A業界では常識となっている、手付金や中間金は取らずに、成約した場合のみ手数料をもらう完全成功報酬制を譲渡企業に対して提供することが可能になった。手付金、中間金が入らないので収入的には厳しくなるが、責任感を持って最後の成約まで顧客に付き合うことで、信頼を得られる。M&Aの経験豊富な専門家を業界別に配置し、そのノウハウを生かしてマッチングとその後の相談に応じている。
リスクを伴う企業買収に新型コロナという不安要素も加わって、買収する企業が減るのではないかという見方があるが、積極的な買収姿勢を維持している買い手も存在している。多くの売り手が事業承継、事業譲渡を検討することで、売却案件が増加し、買い手にとって買収の選択肢が増えることになる。