出口はいつになるのか?
――黒田日銀総裁の任期はあと2年あるが、買い増してきたETFを売る(出口)タイミングはいつになりそうか。
井出上席研究員 あと2年間の黒田総裁の在任期間中に「出口」に向かうことはないだろう。売却すると、今までの購入してきた方針を否定することになるので、引くに(売りたくても)、引けない(売れない)というのが本音ではないか。買い入れを減らすことはあっても、止めるとか売却する舵を切るとは考えられない。
任期中にあるとしたらベストな「出口」シナリオは、黒田総裁の任期満了まで買い入れを続けるにしても、「出口戦略」としての何らかの道筋を示すことではないか。そこまでやってもらえば黒田総裁はベストだと思う。具体的なことは次の総裁にやってもらうしかない。
日銀は昨年12月の金融政策決定会合で、金融緩和の長期化を見据えて政策を点検し、結果を今年3月に公表すると決めた。つまりこれまで続けてきたETF大量購入から減らしてみて、そのデータを蓄積して点検に備えようとしているのではないか。
全くの憶測だが、安倍政権から菅政権に代わったことで、日銀と首相官邸との関係にも変化が生まれたのかもしれない。安倍政権の時は株価重視の姿勢が強かったが、菅政権になりETFの購入を少し減らして実験してみることが可能になったのではないか。
――井出上席研究員は18年の4月に、具体的な日銀の「出口戦略」を提案されたそうだが、どういう内容なのか。
井出上席研究員 日銀が直接市場で売るのはマーケットに対する影響が計り知れないので、現実的ではない。影響を最小限にしようとすると、事前に相当の準備が必要となる。そこで私がイメージしているのは、買いたい希望者(個人投資家)に売るという方法だ。日銀が持っているETFを、いまの株価より1~2割ほど割り引いた価格で、一定の上限を設けて個人に限定して希望者に購入してもらう。その際に購入後の5~10年間は売却できないという条件を付けておけば、一度に売りが殺到して株価急落ということにはならない。
――ユニークなアイデアだとは思いますが、またぞろ金持ち批判が出そうな気もしますが。
井出上席研究員 その批判を少なくするために、若い人から優先的に希望者を募ればよいのではないか。2年ほど前に「老後の資産が2000万円必要だ」と言われて騒がれたことがあったが、老後の資産形成と言われてもどうすればよいか分からないと思う。それならば、すぐには売却できないという条件をつけておけば、老後に備えることにもなり、日銀株の購入は一つの選択肢になるのではないか。当然、値下がりのリスクもあるので、多少のリスクを負っても利回りを確保したいという、あくまで希望者限定になる。
このアイデアはとっぴなように思われるかもしれないが、実は1998年に香港行政府がヘッジファンドの売り仕掛けに対抗して香港株を大量に買い入れ、その後、ETFにしたものを時価より5%ほどディスカウントして国民に譲渡したという事例がある。
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