2022年12月4日(日)

近現代史ブックレビュー

2022年3月17日

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筒井清忠 (つつい・きよただ)

帝京大学文学部長

1948年大分市生まれ。帝京大学文学部長・大学院文学研究科長。東京財団政策研究所上席研究員。専門は日本近現代史、歴史社会学。『昭和十年代の陸軍と政治』(岩波書店)、『二・二六事件と青年将校』(吉川弘文館)など著書多数。

「退屈」という有望な報告

 また、ある社会において大衆運動が勃興する準備ができているかどうかを判断するための最も信頼できる指標となるのは退屈が広がっていることだともいう。大衆運動の興隆に先立つ時代について説明した多くの文献において、倦怠感が広がっていたことが指摘されている。大衆運動はそのごく初期の段階においては抑圧されている人々よりも退屈している人々のうちに同調者や支持者を見出すことが多いのだ。

 大衆的な動乱を引き起こすことを計画している人々にとって、住民が退屈しきっているという報告は経済的あるいは政治的に耐え難いほどに苦しめられているという報告と同じように有望な報告なのである。

 個人が退屈から免れることができるのは、創造的な仕事に携わるか、仕事にすっかり心を奪われるか、生き延びるための生存競争に専念している場合に限られるのであり、そうではない多くの人を大衆扇動家は狙っているのだ。

大衆運動から考える「自由」とは

 これは自由についての洞察に結び付く。選択の自由が与えられた個人は失敗したならば自分の選択したことについてすべての責任を負わなければならない。そして自由な社会に生きる人々ほど多くのことを試みることを奨励されるだけに失敗も欲求不満も多くなるのは避けがたい。

 結局、こうした社会では、自分で何かを成し遂げる才能を持っていない場合には、自由を与えられることは面倒な重荷を背負い込むことなのである。そうした人にとっては選択の自由があったところでそれが何の役に立つと言うのだろうか。私たちが大衆運動に参加するのは個人の責任から逃れるためであり、熱心な若いナチ党員の語る言葉を借りれば「自由から自由になるため」なのである。

 従って大衆運動が広まるための最も肥沃な土壌となるのは、かなりの自由が認められながら欲求不満を緩和する手段が存在してない社会であると考えることができるだろう。

 以上は本書の考察の一部にすぎない。最後の考察からわかるように広い意味の大衆運動は私たちの大衆社会ではますます増大していき、私たちはそれに魅惑されまた苦しめられることになる。従って、そうした歴史への基本的視点を示した本書はますます読まれるものになっていくだろう。

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 Part 3  自ら学び変化する人材を企業人事はどう育てるのか
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 Part 4  過熱するデジタル人材争奪戦 〝即戦力〟発想やめ自社育成を 編集部
Column 1 迫る〝2025年の崖〟 企業は「レガシーシステム」の刷新を
角田 仁(千葉工業大学 教授・デジタル人材育成学会 会長)
 Part 5  技術継承と効率化の鍵握る人間とデジタルの「役割分担」 編集部
Column 2 100分の1ミリで紡ぐ伝統 知られざる貨幣製造の裏側 編集部
 Part 6  「米国流」への誤解を直視し日本企業の強み生かす経営を
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Column 3 全ビジネスパーソン必読!「対話不全」への処方箋
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 Part 7  根拠なき日本悲観論 企業に必要な「コンセプト化」の力
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