2024年11月22日(金)

安保激変

2013年2月18日

 2007年8月にロシアの深海潜水艇が北極点の海底にチタン合金製の国旗を打ち付け、自らの大陸棚が地理的に北極点にまで伸びていることを示そうとしたが、これを資源争奪戦の始まりと捉える向きもある。だが、北極圏の資源の多くは係争海域には存在せず、厳しい気象条件下での資源開発には、安全に採掘する技術が不可欠である。このため、沿岸国は競争ではなく協力による資源開発を目指している。 実際、ロシアとノルウェーは2010年4月に40年にわたるバレンツ海の境界画定で合意し、同海域での共同開発への道を開いた。アメリカとカナダもボーフォート海の境界画定で長年争ってきたが、解決に向け共同で海底調査を行っている。

日本がとるべき北極戦略

 北極の地政学的変化は北東アジア、とりわけ日本、韓国、中国、ロシア、そしてアメリカにも影響を与え始めている。

 すでに韓国と中国は北極への関与を積極かつ慎重に推進しており、独自の砕氷調査船による科学的観測に加えて、航路開発とエネルギー開発に取り組み、首脳外交も展開している。ロシアは北極海航路の開発と資源開発を重視する政策をすでに実行しつつあり、北極圏だけでなく、北方領土やオホーツク海における軍事的プレゼンスの強化にも取り組んでいる。ロシアは中国の北極への進出を警戒し、北方領土の戦略的価値を再発見している可能性がある。

 アメリカもブッシュ前政権下で北極に関する総合的な方針を策定しているが、国連海洋法条約を批准していないこともあって積極的な取り組みに至ってないのが実情である。また、海軍は北極ロードマップを策定し関与を深めているが、北極をめぐる状況がオバマ政権のアジア重視にどのような影響をもたらすのかは不明だ。

 日本の北極への関与は出遅れている。日本が持つ極地研究の経験や、造船、砕氷、資源開発技術は北極海の開発に大きく貢献し得るが、北極の地政学的変化に対応するためには国を挙げた長期的な取り組みが不可欠である。まずは早急に司令塔を定め、長期的な観点から国家政策を策定し、科学的観測、航路・エネルギー開発、日本海やオホーツク海で予想される外国船の通航量の増加に取り組むべきだ。

 一方、外交面では北極圏における課題を調整する北極評議会へのオブザーバー参加を実現することが最優先課題である。また、利害を共有する中韓との連携も強化すべきであろう。ロシアとはエネルギー開発では協力しつつ、航行の規制についてはその法的正当性について対話を持つべきだ。そして、同盟国アメリカとも戦略対話を通じて北極に関する認識の共有を促進するべきである。

 安倍晋三首相は、昨年結成された北極に関する超党派議員連盟の会長に就任している。創設が見込まれる国家安全保障会議の活用も念頭に、北極問題に積極的に取り組んでもらいたい。

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