2024年4月23日(火)

サイバー空間の権力論

2013年2月25日

警察の捜査に関する問題

 事件は日々進展していると同時に様々な論点を含んでいる。本稿ではその複雑な論点を大きく2つに分けて論じようと思う。警察の捜査に関する問題と、犯行における技術的問題である。前者からみてみよう。

 警察が引き起こした昨年の誤認逮捕に関する問題については、メディアやネット上から多くの批判が生じた。というのも、書いてもいない殺害予告メールの件で逮捕された4人の被害者のうち2人は、長期の勾留や弁護士の立会いが認められない中で、警察の尋問に耐えることができず、ありもしない犯罪行為を自白し、犯行動機まで述べてしまったからである。

 さらに問題は、警察が被害者を逮捕した理由がIPアドレスの一致だけだったというものだ。IPアドレスはネット上の住所のようなものであり、ネット上の書き込みは通常IPアドレスを調べれば足がつく。しかし、IPアドレスが一致しても、ウイルスによって自動的に書き込みがなされるケースは十分に想定可能であり、現にそうした可能性は以前から指摘されてきた。にもかかわらず、ウイルス解析などの十分な捜査を怠るどころか、「自白すれば罪が軽くなる」といった類の利益誘導が行われた、との証言が一部で報道されている。利益誘導は法で禁止されているため、これが事実であれば警察の罪は重い。

 この他にも捜査上の不備はまだまだ指摘されている。従ってこの問題は警察のサイバー犯罪に対する捜査能力だけでなく、警察の捜査体質そのものにあると言える。またこうした冤罪事件が繰り返されるたびに、取り調べ現場の録音・録画といった全面可視化の議論が行われており、片山容疑者もまた、取り調べの際の録音・録画を求めている。これは法の規定を飛び越えた警察権力の過剰が故のことである。

犯行における技術的問題

 もうひとつの問題は、遠隔操作事件における技術的なものである。ここで重要なことは、巧妙に仕組まれていたものとはいえ、犯行が天才でなければできないレベルのものではない、ということである。

 今回の犯行は、ネット上の足跡が残らないように匿名化ソフト「Tor(トーア)」を用いたことで捜査が難航した。情報技術の発展とともに様々なソフトが開発されている現在、遠隔操作ウイルスの製作やその後の犯行に及ぶためには、一定の技術は必要であれど突出した才能を要求するものではない。


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