2024年4月25日(木)

スポーツ名著から読む現代史

2022年3月23日

 世界のサッカー界へのオシム氏の鋭い批判もある。少し長いが、重要な指摘なので引用する。

 <かつて、サッカー界には騎士道があった。負けることも許されたし、良い戦いもできた。現在はだれもそのようには見ないし、考えもしない。それは、なぜか? 戦っているのはチーム同士ではないからだ。実は、スポンサーたちがサッカークラブを通してお互いに戦っているからだ。今やサポーターが重圧ではなく、スポンサーが重圧となっているのだ。チームが負けた時は、チームではなく、彼らスポンサーが敗者なのだ。つまり、そこに新たなプレッシャーが生まれ、人間性や美しいものは失われていく。現在はすべてにおいて商業主義なのである。

 そして残念ながら、政治や経済などで起こる物事の下に続くのがサッカーである。サッカーがすべてよりも上に位置していたのならば、この世界は美しかっただろう。だが、現実は違う。サッカーが政治や経済を導くのではない。むしろ逆なのだ。このトレンドを私が止めることはできない。それができるのは、サッカーを愛するあなた方だけだ>(『日本人よ!』179頁)

 混沌とするウクライナ情勢下の今だからこそ、重く突き刺さる言葉であると言える。こうした時だからこそ、サッカーやスポーツにできることはないのであろうか。

7大会連続W杯出場をかけた日本に

 オシム氏が病に倒れ、日本代表監督を退いてから15年の歳月が経過した。その間、日本代表はW杯アジア予選を勝ち抜き、18年ロシア大会まで通算6大会連続出場を続けている。

 10年南ア大会とロシア大会は決勝トーナメントに進んだが、いずれも1回戦で姿を消した。オシム氏が指摘したように、「日本は大国だが、サッカーは最強でも最高でもない」地位からさほど前進できていない。

 果たして森保ジャパンは7大会連続でW杯の大舞台に立てるか。『日本人よ!』の帯にも引用されたオシム氏のメッセージを選手にささげたい。

 「自分に誇りを持とうじゃないか」

   
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