2024年4月25日(木)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2022年3月28日

その後ノルウェーの水産業はどうなったか?

 ノルウェーの輸出金額推移を示した下のグラフをご覧ください。14年のロシアによる禁輸の影響は、全く感じられなかったことがわかります。ロシアへの輸出は21年のノルウェー輸出統計によると僅か4000トン弱(3678トン)と、禁輸以前の100分の1。しかしながら、輸出の増加傾向ではっきりと分かる通り、全体として影響はなく、水産業は発展を続けています。

 それどころか21年の輸出数量・金額は約310万トン・約1.6兆円と過去最高金額を更新し、伸び続けています。水産資源が持続的になっているので、最大の輸出先を失っても、それを十分に置き換える世界市場を開拓したのです。

その時のロシアの水産物と漁業政策

 一方で、禁輸により水産物が不足するかに見えたロシアはどうなったのでしょうか。ファロー諸島とグリーンランド(デンマーク自治領)の水産物やベラルーシ経由といった抜け穴が一部ありますが、自給が進んでおり、特に困っているといった情報は耳にしません。

 それどころか、21年のロシアの漁獲・生産量(天然+養殖物)は505万トンと、過去30年では最高の数量となっています。

 漁獲量(天然物)について、ロシアは大胆な政策を打ち出しています。2016年に同国で漁業改正法が成立しました。

 19年から33年の新漁業政策が効果を発揮しています。投資枠として漁獲可能量(TAC)の20%が当てられました。うち、代船建造に15%、陸上工場に5%という配分になっています。ロシア漁船は平均船齢30年超と老朽化が激しい旧式漁船が、ハイテク漁船に代船されて行くことになりました。

 投資枠制度により、カニ漁船25隻を含め、80隻もの新造船の建造が進められており、それらの一部はすでに稼働を始めています。

 陸上加工場では24カ所でプロジェクトが進んでいるといわれています。北方領土の色丹島には、アイスランド、ドイツといった西側の設備を使った工場が建設済みで、加工処理能力は1日で約3000トンと見られています。この数量は、日本最大の水揚げ地である銚子地区の処理能力に相当します。

 巨大な加工設備が出来上がると、工場稼働のため大量の原魚が必要になります。マダラ、スケトウダラ、ニシンといったロシア主体の水産資源以外に、同国はマサバ、マイワシにも期待しています。後者はもともと日本で生まれ、ロシア海域にも回遊する水産資源です。

 漁業者に配分する漁獲枠の保有期間を従来の10年から15年に延長し、長期的視野に立ち投資を行いやすくしています。また、漁獲枠の消化率が50%から70%に引き上げられ、2年間下限に達しなかった漁業者は、枠を没収される恐れがあります。

 このため16年には、ロシアスケトウダラ漁業者団体から、増枠勧告に対して下方修正が提案されています。漁獲枠を消化できない場合のリスクと、漁獲量の増加による魚価の下落が懸念されたためです。

 「大漁祈願」の日本式漁業には理解されにくいかもしれませんが、水揚げ量ではなく、水揚げ金額を重視することからすれば、これが国際的には普通の考え方なのです。

 ちなみに、もし日本で枠の消化率が70%に義務づけられた場合、サンマ、スルメイカを始め漁業者の方から科学的根拠に基づく枠、つまり実態が伴う枠を要求してくることでしょう。現状の日本のTACは、国際合意によるクロマグロを除き、枠が実際の漁獲量を大きく上回っており、これでは資源管理に対する効果はほとんどありません。


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