2024年4月16日(火)

都市vs地方 

2022年3月29日

世界各国の首都機能移転への動き

 こうした首都機能移転の動きは日本に限ったことではなく、外国でもいくつかの国で試みられてきた。例えば、ブラジルでは、内陸部振興による国土の均衡ある発展のため、1960年にリオデジャネイロからブラジリアに首都が移転した。

 マレーシアや韓国では、2000年代に、首都への人口集中の緩和を目指して首都機能の一部が移転され、マレーシアではクアラルンプールが首都、ブトラジャヤが行政首都という位置づけになり、韓国ではソウルが首都のまま、セジョンへの行政機能の移転が推進された。最近では、インドネシアが22年にジャカルタから新しい首都ヌサンタラへの移転の法案を可決した。これは人口の過密化や大気汚染、地下水の過剰採取による急速な地盤沈下への対応であった。

 諸外国における首都機能移転の議論には、もちろんそれぞれの国特有の要因もあるが、日本における首都機能移転の議論と共通する点もある。首都への人口一極集中を問題視し、その緩和と他の地域の振興を目指すという点(日本の首都機能移転の目的②東京一極集中の是正)である。

 この点は、首都以外の地域の賛同を集めやすいため、首都機能移転の目的として挙げられやすい。しかし、22年2月1日の当サイトの記事「東京23区は一極集中の象徴か究極のコンパクトシティか」で詳しく述べたように、東京が都市として本当に過大なのか、東京への一極集中は過度なのかは必ずしも自明ではない。

 国の政府が東京の規模や一極集中の是非を論ずる際には、人口集中がもたらす、取引費用の節約や人的交流を通じたスピルオーバー(拡散)効果などを通じた意図せざるメリット(これは「集積の経済」と呼ばれる)と、混雑や渋滞などを通じた意図せざるデメリット(これは「混雑の不経済」と呼ばれる)とのバランスを考慮する必要がある。

 現状では、東京が日本経済のけん引役の一端を担っていることは間違いない。東京の活力を削ぐ政策は、集積の経済の変化と混雑の不経済の変化を通じて、日本全体にどのように影響するのか、丁寧に吟味する必要がある。しかし、現状ではこうした議論はほとんど行われず、東京が過大で、一極集中が行き過ぎていることが大前提として述べられてしまっている。

 極めて重要な政策の是非を論ずるうえで、こうした議論をおろそかにするべきではない。②を首都機能移転の目的とするためには、詳細な定量的分析が必須である。

国政改革と災害対応力という目的は妥当か?

 これに対して、首都機能移転の目的①国政全般の改革の促進と③災害対応力の強化は現状でも妥当である可能性が高い。首都機能を一部でも移転するからには、国政全体を見直す必要があるし、東京が大災害に見舞われた場合に、首都機能が東京以外にもあれば、国政の機能を一度に全て喪失するのを避けられる可能性がある。

 しかし、目的①を鑑みた場合、日本全体の合意を得るのは簡単ではない。各都道府県で選ばれた国会議員が国会で議論を行うわけであるから、この首都機能の移転により不利になる地域選出の議員は当然反対する。すると、候補地のうち、例えば栃木・福島地域に移転することに対しては、東京以西の地域から見れば、首都機能が遠ざかる可能性を意味することから、反対意見がでるであろう。また、岐阜・愛知地域への移転は、東京以東の地域にとって賛同しにくいはずである。

 どの地域に移転するにしても、その移転された機能から遠ざかる地域が生じる場合、それらの地域は移転に反対する可能性が高い。移転が国全体の合意を必要とするのであれば、このことは実現可能性を大きく損なうことになるであろう。


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