事業停止呼びかけの動き
SWIFTからの排除や、米国などが個別に進めるロシアの金融機関との取引規制で、ロシア企業は海外ビジネスが展開できない状況に陥っている。制裁対象以外の銀行を通じた決済は可能だが、制裁網が現在も広がりを続ける中、いつ資金が回収できなくなるか分からない。そのようなリスクを背景に、多くの海外企業がロシア企業との取引を停止した。
侵略を受けるウクライナも、各国の企業に対しロシアでのビジネスをやめるよう働きかけている。ゼレンスキー大統領は日本の国会で行われた演説で、ロシアとの貿易停止を求めた。フランスの自動車大手ルノーは3月下旬、ゼレンスキー氏が演説で事業停止を要求した結果、モスクワ工場の操業中断に追い込まれた。
ウクライナはインターネットを通じた国際社会への情報発信でロシアを圧倒している。ウクライナ政府は、ロシアでビジネスを続ける多国籍企業には停止を呼びかけ、受け入れなければSNS上で苛烈な批判を展開する。企業は株主や顧客の厳しい視線にさらされることになる。
ロシアのプーチン政権は、撤退した外資系企業の資産を事実上没収する方針を表明したほか、ルーブルの下落を抑えるために海外企業に天然ガスの輸入代金をルーブルで支払うよう要求するなど、恫喝や契約違反ともとれる〝対抗策〟を繰り出している。しかし、このような動きはビジネス上の信頼をさらに失墜させるのは必至で、自らの手で首を絞めかねない。
中国の動向は
一方、欧米の対ロシア制裁の先行きに影響を与えかねないのが中国の動向だ。王毅外相は3月上旬、ロシアとの関係をめぐり「国際情勢がいかに険しく変化しようとも、協力関係を前に進めていく」と表明。中国は欧米の制裁に対しても反対姿勢を鮮明にしている。
ただ、ロシアとの経済関係において、中国が欧米や日本などの穴埋めができるかは疑問がある。新型コロナウイルス禍前の19年、ロシアの輸出先のシェアで中国は約13%だった。欧州連合(EU)の割合は40%超で、中国市場がEU市場を代替するのは決して容易ではない。
その中国も、対ロシア制裁の巻き添えとなる事態は避けたいようだ。中国石油大手の中国石油化工集団(シノペック)は3月下旬、ロシアの石油大手シブールとの石油化学プラント建設事業をめぐる協議を中断したと報じられた。
シブールの小数株主がプーチン政権に近い富豪で、欧米の制裁対象になっていたことが理由という。シノペックはロシアの天然ガス大手ノバテクとの事業も、同様の理由で協議を止めた。制裁対象のロシア企業とビジネスを行えば、自らも制裁されかねないからだ。
戦争はいずれ停戦すると予想されるが、ロシアがウクライナに侵略したという事実は変わらず、ロシアが併合したクリミア半島や「国家承認」した東部地域を手放すとは考えられない。そのため停戦をしても、国際社会がロシアへの経済制裁を解除する可能性は極めて低いのが実情だ。
プーチン政権は自ら引き起こした戦争の結果として、ロシア経済を確実に破綻に追いやろうとしている。