2024年7月16日(火)

未来を拓く貧困対策

2022年4月2日

生活保護で「失踪による廃止」は20分の1を占める

 政府の公式統計による生活保護の廃止理由のうち、「失踪による廃止」は8378件、全体の5.1%を占め、堂々の第3位である。廃止理由第1位は「死亡」(7万4438件、45.5%)、第2位「働きによる収入の増加・取得」(2万2615件、13.8%)、第4位「社会保障給付金の増加」(5799件、3.5%)、第5位「親類・縁者等の引き取り」(5799件、3.5%)と続く。なお、いずれの理由にも当てはまらない「その他」は2万9661件で、全体の18.1%を占める(図表1、令和2年度被保護者調査)。

 ここでいう「失踪」は、生活保護独自の用語で、民法上の「失踪」とは意味が異なる。東京都が策定している『東京都運用事例集』という生活保護のマニュアルでは、次のように定義している。

「失踪」の定義
失踪とは「行方をくらますこと」であり、生活保護の実施機関と被保護者との関係で言えば、被保護者が、実施機関に対する事前の申出なく、一方的にそれまでの居所を去って連絡が取れなくなることである。(出所:『東京都運用事例集』)

 ちなみに、民法30条に規定される「失踪の宣告」の定義は次のとおりである。

民法30条(失踪の宣告)
1.不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2.戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。

 失踪の宣告およびその取消しは、2021年度2115件となっている(令和2年度司法統計)。まったく言葉の重みが違うことが理解できるだろう。

住居喪失者の「失踪による廃止」が増える理由

 生活保護制度における廃止処分は、極めて重い処分である。最低生活を営むことができないからこそ生活保護の対象となる。本来、廃止になるということは、生活保護が必要なくなる状況でなければならない。

 死亡を除いて、就労収入や社会保障給付金の増加、親類・縁者の引き取りなどが理由で廃止する場合には、原則として最低生活費を超える収入があることを確認する必要がある。「働けるのに仕事を見つけようとしない」などの理由で制裁的に生活保護の廃止処分をする際にも、厳格な手続きが定められている。

 一方、失踪の場合は、「居所を去って連絡が取れなくなる」という事実だけがあればよい。

 とはいえ、持家や賃貸アパートなどの定まった住所がある場合は、簡単に廃止になることはまずない。「そこに住んでいない」という証明が必要になるからである。複数回訪問したり、手紙を残して連絡をするよう伝えたり、生活保護費の支払を銀行振込から窓口払いに切り替えたりして、あの手、この手で利用者と連絡を取る努力をする。逆説的な言い方をすれば、「それだけ手間暇をかけなければ、廃止処分はできない」ということでもある。

 一方で、住居喪失者の場合は話が変わってくる。今回はホテルだが、病院や無料低額宿泊所などの「一時的な居所」の場合は、その管理者から「いなくなった」という連絡をもって生活保護の廃止処分をすることが慣行となっている。そこで最低生活ができているか否かは考慮されない。


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