わが国の国家予算をも上回る全米学生の巨額ローンにどう向き合うか――。コロナ禍対策で財政赤字が膨らむ中、2020年大統領選の公約だった未返済借金の帳消し問題が、バイデン大統領を苦しめ続けている。
米国の大学事情が日本など諸外国と大きく異なる特徴の一つは、多数の学生が政府融資に依存しているという事実だ。その背景には、家庭環境に関わらず、学ぶ意思のある若者には可能な限り便宜を与え、知育を国の資財にしていくという「教育の機会均等」の精神が厳然として存在する。
ちなみにわが国では、低所得家庭の大学生は国からの生活保護の対象からはずされており、貧しい家に生まれ育った子どもは、予め奨学金など別の収入を確保できない限り、大学進学の道は事実上、閉ざされたかたちとなっている。言い換えれば、今日もなお、大学進学を国が「贅沢」と判断していることを意味する。
あまねく高等教育を提供する米国
これに対し、米国では建国以来、「学ぶ機会」は万人に与えられるべきであり、高等教育を受ける意思と能力を持つ生徒に対してもできる限り国が支援していくという伝統が生きづいている。かつて、米国屈指の大事業家として知られたアンドリュー・カーネギーが19世紀後半から20世紀初めにかけて、全米各州で私財を投げうち1679カ所もの図書館を開設したのも、貧しくて本を買うことすらできない子どもたちにもあまねく知識と情報を提供することの重要性を理解していたからだった。
こうした背景があるだけに、高卒後の大学進学率も高く、今日、全米の公私立合わせた大学在籍者総数は、約1960万人、内訳は公立大学生1450万人、私立大学生510万人(いずれも19年度統計)に達しており、毎年この数字はほとんど変わっていない。日本の大学生数約292万人(20年度)とくらべても、7倍近くと群を抜いている。また、全米50州のうち19州のコミュニティ・カレッジ(2年制)では授業料無料だ。
歴代民主党政権で俎上に上がり続けている課題
問題は、在学中に連邦政府から気前よく融資を受けたものの、いまだに返済が滞っている学生や成人が4300万人にも達していることだ。そして未返済の政府ローン総額が、なんと1兆7000億ドル(1ドル110円換算で約187兆円)にも及んでおり、日本の国家予算の1.8倍になる。