2022年6月30日(木)

バイデンのアメリカ

2022年2月9日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

実は階級闘争にも発展しかねない問題

 こうした動きに対し、なおバイデン大統領がただちに決断に踏み切れないのは、それなりの事情がある。

 中学、高校卒後、就労の道を選んだ低学歴層の間から「自分たちも生活に困っているのに、なぜ、大学生だけを優遇するのか」といった反発があるからだ。とくに、中西部、南部の労働者階級のトランプ支持者層の間で、こうした意見が多く聞かれる。

 また、在学中の融資対象者に黒人や女性が比較的多いことから、人種間、男女間の微妙な問題にもなってきた。

 学生ローン帳消し問題は、「中・高卒者VS大学生」のまさに〝階級闘争〟にも発展しかねない要素をはらんでいるのだ。

 このように、政権発足1年を経て新たに関心が高まってきた「ローン帳消し」の選挙公約について、教育省スポークスマンは、1月末、電子メディア「The Hill」に対し「ホワイトハウスと実施プランの内容や見解を調整中」と答え、公約は〝死文化〟していないことを強調したものの、実施の時期など今後の見通しなどについては明言を避けた。

 これに対し、与党民主党内部からも、この問題についての政府の煮え切らない態度を批判する声も上がり始めている。

 同党進歩派で、学生ローン帳消しを早くから訴えてきたコリー・ブッシュ下院議員(ミズーリ州)は「まさに社会全体に関わる深刻な問題であり、大統領がペンを握ってサインすれば、国全体を救う稀有なチャンスともなる。彼は今すぐにでも行動に出るべきだ」と熱っぽく呼びかけた。

厳しい財政状況という足かせも

 バイデン政権が優柔不断な態度をとり続ける中で、今月に入り、さらに悪いニュースが財務省から飛び込んできた。

 去る1日、同省が公表した統計によると、米国の累積債務がこれまで「上限」とされてきた30兆ドルを早々と突破、史上最悪の状態となった。予想以上のペースで赤字が膨らんだ理由として、コロナ禍により失業対策、零細企業援助などで5兆ドルに上る緊急出費を余儀なくされたことが挙げられている。

 コロナ感染は国内一部地域でピークを迎えつつあるとはいえ、国全体ではなお収束のめどは立っていない。さらに、対策費として計上されていた関連予算もほぼ底をつき、新たに追加歳出を議会に要請せざるを得なくなるなど、政府の財政は一段と厳しい状況下に置かれている。

 それだけに、この時点で、学生向けのローン帳消しに踏み切った場合、「国家債務をどこまで押し上げるつもりか」といった野党共和党の猛反発を招きかねない。

 結論として、大統領としては11月中間選挙を控え、どうにも動けないというのが、今の偽らざる心境だろう。

  
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