2022年7月5日(火)

バイデンのアメリカ

2022年2月9日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 数年前、筆者は滞米中、首都ワシントンのジョージワシントン大学(私立)大学院生R.T君(当時30歳)に詳しくインタビューしたことがあった。彼の話によると、学費、生活費合わせ毎年5万2000ドルの出費を余儀なくされ、アルバイトでも追いつかず、結局、国からのローンに頼らざるを得なくなった。その額は進学以来すでに7万ドルに達したが、「修士課程修了までにはあと2万ドルは必要」ということだった。

 そして社会人となった卒業生たちにとっても、こうした大学時代のローン返済が家庭生活に大きくのしかかり、深刻な社会問題となりつつある。

 このため、弱者救済を重視する歴代民主党政権にとって、累積一方の学生ローン問題は、大統領選挙戦のたびごとに、重要政策課題として俎上に上りながら今日に至るまで先送りとされてきた。

 しかし、バイデン政権になって改めてホットな議論の対象となってきたのは、バイデン氏自身が、20年大統領選で当選直後、政策目標の一つとして学生ローン「返済免除」に前向きに言及していたからにほかならない。

 バイデン氏は当時、記者会見で「新政権発足後、着手する経済再生計画の一部に学生ローン帳消しを組み入れる用意はあるか」と聞かれたのに対し、「ローン返済に学生たちは苦しめられており、借金を返すか、アパートの家賃に回すかの苦しい選択を余儀なくされている」として、帳消し問題に理解を示した上、具体的に「学生一人当たり最低でも1万ドルをただちに猶予キャンセルするつもりだ」と踏み込んだ発言をしていた。

いまだ記者の質問もはぐらかす状態

 ところがその後、大統領就任1年を経過した今も、ローン帳消しに関する具体的措置はなんら打ち出されていない。

 そこで、去る1月16日、ホワイトハウスでの記者会見に臨んだバイデン大統領に対し、〝バイデン番記者〟の一人から対処方針について鋭い質問が浴びせられた。

 「あなたは大統領就任前から、学生ローン問題について1万ドル帳消しを公約してきた。ところが、1年たった今も実現していない。計画通りやるつもりなのか。やるなら、いつ具体的に踏み切るのか?」

 これに対し、大統領は、経済再生計画の見通しについて答えたのみで、肝心の1万ドル帳消し問題は見事にはぐらかしてしまった。記者はなお食い下がろうとしたが、質問が別のテーマに移り、明確な回答は得られなかった。

 こうした大統領の態度について、早速、コメントを求められた民主党進歩派の重鎮の一人、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)は「学生の借金問題は社会全体を圧迫しつつある。何百万人という学生が借金を返済できず、途中退学を余儀なくされている。大統領はただちに、1万ドル帳消しに踏み切るべきだ」と詰め寄った。

 この問題については、他にもナンシー・ペロシ下院議長(カリフォルニア州)、チャールズ・シューマー上院院内総務(ニューヨーク州)ら多くの民主党要人、学界、教育界の識者たちの間でも、支持意見が広がっており、バイデン政権への圧力が高まりつつある。

 つい最近では、大統領の住むホワイトハウスを南庭から見通す鉄柵越しの広場に「CANCEL STUDENT DEBT ! (学生の借金帳消しを)」と大書きした支援団体による横断幕までお目見えした。

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