2022年11月29日(火)

未来を拓く貧困対策

2022年4月2日

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大山典宏 (おおやま・のりひろ)

高千穂大学人間科学部教授

1974年生まれ。社会福祉士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。福祉事務所や児童相談所での相談業務、生活保護利用者の自立支援事業の企画運営等の行政経験を経て、現職。著書に『隠された貧困』(扶桑社新書)『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)『生活保護vsワーキングプア』(PHP新書)など。

 2022年3月14日、生活保護制度における住居喪失者への差別的対応につき、問題の核心に踏み込む検証報告が発表された。厚生労働省も、現場の実態把握に向けた調査研究への着手を表明した。コロナ禍で生活に行きづまる人たちが増える中で、最後の安全網である生活保護制度はその役割を果たしているのか。検証報告の紹介を通じて、この問題を考えてみたい。

(Annadokaz/gettyimages)

 検証報告の正式名称は、「生活保護廃止処分の取り消しに伴う再発防止策についての報告書」という。足立区長の附属機関である同区生活保護適正実施協議会が、区による生活保護廃止処分の問題点を検証し、再発防止策を取りまとめたものである。以下、ごく簡単に事例の概略を説明しよう。更に詳細を知りたい場合は、検証報告を参照してほしい。

 コロナ禍で生活に困窮した相談者が区に生活保護を申請し、一時的にビジネスホテルに身を寄せた。区の担当者は調査のためビジネスホテルに連絡したが、本人と連絡を取ることができなかった。従業員からは本人の所在がわからないとの報告を受け、区は「失踪した」と判断、生活保護の決定から4日で廃止処分を行った。これに対して、相談者を支援した民間団体は「性急すぎる判断である」と抗議、区は不十分な調査で廃止処分を行ったとして本人に謝罪、廃止を取り消した。その後、民間団体から再発防止の要請を受け、区が検証委員会を設置したものである。

 検証報告では、「生活保護の意義に関する研修が不十分で、廃止処分の重大性について職員の理解が浸透していなかった」と指摘、判断基準の明確化や事務処理プロセス、組織体制や研修の見直しなどの改善策を提言した。区では検証報告を精査し、必要な対策を講じ、再発防止を徹底していくとしている。

 実は、生活保護を運営する行政にとって、「失踪による廃止」は生活保護から利用者を排除するための便利なツールとして利用されてきた。厚生労働省や都道府県も、この問題を正面から取り上げてこなかった。この問題は現在進行形で未だ解決の道筋が見えていない。足立区の事例は氷山の一角である。

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