2022年9月26日(月)

未来を拓く貧困対策

2022年4月2日

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大山典宏 (おおやま・のりひろ)

高千穂大学人間科学部教授

1974年生まれ。社会福祉士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。福祉事務所や児童相談所での相談業務、生活保護利用者の自立支援事業の企画運営等の行政経験を経て、現職。著書に『隠された貧困』(扶桑社新書)『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)『生活保護vsワーキングプア』(PHP新書)など。

 生活保護の決定実施は、市区町村ごとの縦割りになっている。「うちの管内にはいないのだから私たちに責任はない」というロジックである。病院の治療方針に納得ができない、宿泊所の集団生活に耐えられない、管理者や他の利用者からのパワハラやいじめがあるといった個別の事情が考慮されることは、残念ながらあまりない。我慢できなくなった利用者は、行政への不信感を募らせつつ、黙って姿を消す。その積み重ねが、「失踪による廃止」といっても過言ではない。

 こうした運用は、生活困窮者を支援する民間団体や法律家、研究者から繰り返し批判されてきた。しかし、この問題に真正面から向き合って「検証」する行政機関はなかった。

運用マニュアルの不備に注目した足立区の検証報告

 今回の検証報告の特筆すべき特徴は、判断マニュアル・業務フローについて踏み込んだ検討が行われている点である。生活保護制度のマニュアルといえば、厚生労働省の通知等をまとめた『生活保護手帳』『生活保護別冊問答集』が広く知られているが、実は自治体レベルでも、実務に即した形で相当なボリュームのマニュアルを整備している。

 しかし、自治体が策定するマニュアルは公開されておらず、外部からみれば「ブラックボックス」となっている。このため、その内容の妥当性が公式に検討されることはなかった。

 今回の検証では、弁護士による専門チームも参加し、判断マニュアルや業務フローのなかで、判断の根拠となった『東京都運用事例集』のQ&Aや足立区策定の「廃止時のチェックシート」を示したうえで、その妥当性が検討された。そのうえで、明確に整理された規定・マニュアルが策定されていなかったこと、廃止時のチェックシートに関する位置づけの不明確さや、周知・徹底が不十分であったことなどが今回の対応の原因となったと結論づけ、改善を提言している。

 先に述べたとおり、今回の事例は足立区に特有の問題ではなく、全国で同様の問題がある。ルールの曖昧さを指摘したことの意義は大きい。

全国ルールの改正に向けて厚生労働省は動くか

 行方不明となった生活保護利用者への生活保護に関する対応はどうあるべきか。足立区の検証報告とタイミングを合わせるように、国レベルでも実態把握に向けた動きがある。

 3月18日、厚生労働省は、居所不明の生活保利用者の停廃止の取扱いについて、自治体の事務に関する調査研究を行い、その結果を受けて取扱いの明確化を図るという方針を示した(令和3年度社会・援護局関係主管課長会議資料)。これは、政令指定都市から内閣府への政策提案を踏まえたものである。

 今回取り上げた足立区の例からわかるように、十分な調査・検討を行わない廃止処分が利用者の権利に与える影響は大きい。厚生労働省が検討過程で有識者会議に示した資料をみると、「安易な停廃止は餓死事件など重大な問題を引き起こす可能性あり」とあり、一定の問題意識をもっているようにみえる(図表2)。

 とはいえ、「失踪による廃止」は、これで改善に向けた動きが始まるだろうと楽観できるほど簡単な問題ではない。実は、足立区の検証報告では本来指摘されるべき問題点が指摘されていない。また、厚生労働省の調査研究の結果によっては、むしろ利用者の権利が阻害される方向で制度が改正されるかもしれない。この点については、次回、さらに深掘りをして問題に迫っていきたい。

  
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