前述のように、ソチ五輪はプーチンの肝いりプロジェクトであり、それがテロによって汚されることは、プーチンの威信を大きく傷つけることにもなるため、テロリストが重要な攻撃目標とする。プーチンはなんとしてもソチの安全を死守したいところだ。そのため、五輪に向けて治安機関や軍を総動員することやロンドン五輪との比較で約52倍に相当する約10万平方キロメートルの空域で、飛行制限も行うことが明らかにされており、競技会場周辺ではすでに無人偵察機による監視がすでに始まっているという。さらに、爆発物検知器を備えたロボットの導入も検討中だと報じられている。
またテロリストの掃討も強化している。たとえば、2月6日には、2010年3月のモスクワ地下鉄爆破テロに関わったとして指名手配されていたグセン・マゴメドフ容疑者が、ダゲスタン共和国での対テロ作戦の末に殺害されたという。
さらに、脆弱な北コーカスの安定を強化するため、政治的テコ入れも行っている。1月末に、ダゲスタン共和国の首長を権威ある大物政治家に交代させ、中央からの支配を強化したのだ。昨年10月に長年対立関係にあったグルジアで新政権が誕生したこともあり、グルジアとの関係改善も少しずつ進めている(たとえば、2006年から禁輸していたワイン、ミネラルウォーター、農産品の輸入が今春にも解禁される模様)。このように地域の政治の緊張緩和にも努力している。
APECの二の舞? 終了後への懸念も
このように、ソチでの建設ラッシュが続き、明るいニュースも多い一方、様々なネガティブな情報も飛び交っているのが現状だ。さらに、「ソチ後」にも今から懸念が及んでいる。
昨年、アジア太平洋経済協力会議(APEC)のサミットはじめとした諸会議が行われたウラジオストクでは、同会議開催に向け、多くの建物や施設が建設され、インフラが整備されたが、その建設業にも汚職や賄賂の問題が多く関わり、多くの関係者が逮捕された。また、それらの多くが劣悪な突貫工事であったため、多くの箇所で補修が必要となっている。建設は国がやっても、補修は地方の負担となるため、地域住民の不満が募っている。
プーチンは自己顕示のために、大きなイベントをモスクワなどの都市ではなく、まだ開拓されていない「新天地を開拓」しながら数多くこなそうとしているが、それらは「はりぼて」的な要素も強く、きちんと今後に残るものとは言えなさそうであり、単なる一時的な無駄遣いではないかという批判は決して少なくない。実際、ソチの住民の多くも五輪に無関心で、冷ややかであるとさえ言われる。
政治と深く絡んだソチ五輪、その成功はプーチンの政治力にかかる一方、その結果が今後のプーチンの政治生命と権力規模に大きく関わってくる。プーチンはソチ五輪と運命共同体とも言え、ロシア政治を分析していく上でも、ソチ五輪は非常に興味深いファクターなのである。
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