与党「公正発展党」(AKP)の支持率は最低レベルまで下落しており、来年6月の大統領選挙でのエルドアン氏の再選に黄信号が灯っている。権力を死守したい同氏はなんとしても支持率を回復しなければならない。だから「ウクライナ戦争の停戦を仲介し、その成果を誇示することで、自らの存在感を国民にアピールしようとしている」(専門家)ようだ。
サウジとの「手打ち」
しかし、経済回復も同時に果たさなければ支持拡大はおぼつかない。このためエルドアン氏はサウジアラビアなどペルシャ湾岸諸国との関係改善を模索。2月にはアラブ首長国連邦(UAE)訪問にこぎつけたが、同氏にとって最大の狙いはサウジとの関係を正常化することだ。
トルコは2018年、カショギ氏がイスタンブールで殺害された事件で、サウジの実力者ムハンマド皇太子が命じた犯罪だと非難、サウジ側が反発してトルコからの農産物などの輸入を停止、昨年は貿易量が92%も落ち込んだ。
危機感を深めたエルドアン氏はサウジ批判を封印、4月7日にはトルコの裁判所が同事件で起訴していたサウジ人26人の公判を中断し、審理をサウジに移管すると決定した。水面下で事実上の「手打ち」が行われたと見られている。こうしたことを反映してか、今年第一四半期のトルコのサウジへの輸出は25%も伸びた。
エルドアン氏の停戦調停が成功して、その国際的な成果を掲げて支持率を回復し、大統領選勝利の道筋ができるかどうか。その帰すうはプーチン大統領の思惑1つにかかっている。ウクライナ戦争の行方はエルドアン氏の政治生命をも左右しつつある。