経済的なつながりで言えば、トルコは国内消費の天然ガスの約4割をロシアに依存している上、収入減の大きな柱である観光産業もロシア頼みだ。統計によれば、昨年トルコを訪れた外国人のトップはロシア人の469万人。ちなみにウクライナは第3位の206万人だ。トルコ初の原発もロシアが20億ドルで受注し建設中。
軍事的にも最新鋭の対空防衛システムS400をロシアから購入し、配備済みだが、導入に反対した米国との関係は冷却化、ステルス戦闘機F35の供与は止められたままだ。対米関係を悪化させてもロシアからS400を購入したのはシリアに軍を駐留させるプーチン氏がシリア北部のトルコ支配を容認したからだ。エルドアン氏が自国の安全保障を優先した〝取引〟だった。
だが一方で、エルドアン氏はプーチン氏の不興を買ってもウクライナへの軍事支援をやめようとはしない。それはウクライナのクリミア半島に居住する少数民族タタール人がトルコ系で、同胞を守るという意識があるからだ。ウクライナの軍需産業とは連携を推進、攻撃型ドローン「バイラクタルTB2」を供給し、ロシア軍に打撃を与えている。
独自の経済理論で悪化の一途
エルドアン大統領が停戦仲介に尽力しているのは経済悪化による政治的苦境を外交的成果で脱却するという思惑が強い動機になっている。エルドアン氏はここ数年、シリアやリビア、イラク、ナゴルノ・カラバフなどの紛争に直接的に介入し、軍事力を行使してきた。
ギリシャやキプロス、イスラエルと東地中海の天然ガス開発をめぐって対立をエスカレートさせ、サウジアラビアとは反体制派ジャーナリスト、カショギ氏殺害事件で関係が険悪化した。エルドアン氏はこうした冒険主義とも言える対外政策や独裁体制によって、かつてのオスマン帝国の〝皇帝〟にも擬(なぞらえ)えられてきた。
しかし、派手な対外政策とは裏腹に国内経済は悪化の一途。通貨リラはこの2年間で40%も下落、インフレが高進した。しかし、エルドアン氏は付加価値税を8%から1%に引き下げたことなどから、2月の消費者物価指数は前年同月比54.4%も上昇、約20年ぶりの高水準となった。
これに新型コロナウイルスのまん延が追い打ちを掛け、庶民の生活は困窮した。米紙によると、苦しい生活に耐え切れず、昨年、医師約1400人が国外に流出した。
しかし、同氏は「インフレ抑制には金融引き締めが必要」というセオリーを否定、「利上げは金持ちをさらに金持ちにし、貧乏人を一層貧乏にする」との独自の経済理論を展開、利上げを拒否し続けている。だが、経済が回復しないことで政治的な苦境も一段と深まった。